「俺の胸で泣け」
普通の及岩?岩及?友情小話です。
一人称は難しいし恥ずかしいなと思っていたのですが、及岩に手を出してから自然と出てくるものが一人称で不思議です。
双子は逆に一人称で想像しにくかったんですけど、なにかあるんだろうな、そういう想像のスイッチが。
普通の及岩?岩及?友情小話です。
一人称は難しいし恥ずかしいなと思っていたのですが、及岩に手を出してから自然と出てくるものが一人称で不思議です。
双子は逆に一人称で想像しにくかったんですけど、なにかあるんだろうな、そういう想像のスイッチが。
俺の胸で泣け
中三時代のことだ。部活中に及川が突如姿を消した。コーチに言われて探しに出かける。大方どっかで凹んでんだろう。どっかり構えてりゃいいのに時々呆れるくらいプレッシャーに弱い奴だ。昨日は後輩に八つ当たりをしていた。あとあと手前に返ってくんじゃねえかと心配していたら案の定だ。体育館裏の草がぼうぼうのところで、膝を抱えてうずくまっていた。
「さぼってんじゃねーよ」
と声をかけると、鼻声が返ってきた。
「…俺って、…嫌な奴だよね………」
ダメな奴だよね。
そう啜り上げる。
めんどくせえな。
正面にしゃがんでやって、俯いているそのつむじを眺める。
「俺はお前のそういう所、嫌いじゃねえけど」
「うそだ」
「ふうん」
頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「う、うそじゃないよね。ごべん、しってる」
撫でる手を半分返してチョップ。
「いたいよ」
泣き声に喜色が混じり始めた。及川は、たまに落ちる。こんなふうに。そしてそれを俺が引きずり上げる。力ずくでだ。
たとえば。
たとえば。
たとえば、俺は、みんなも、試合に負けても、死ぬわけじゃないと思っている。でも及川は、負けたら死ぬと思っている。どこか深いところでだ。こいつの信頼はだから重い。ついてくしかねえだろ。
「負けるのは恐いなあ」
目を覆いながら告白する及川。
「もし試合中にてんぱってサーブ入んなくなって、真っ白になったら俺どうしよう、岩ちゃん」
しょうがねえなあ。
「その時は、黙って俺についてこい」
「…うん」
及川は顔を上げた。目が合う。ひどいツラだ。
「ブサイクになってんぞ」
とストレートに指摘すると、うるせーわと鼻の頭に皺を寄せた。
「あー女子には見せれないよ。あー俺かっこわるい」
と再度もぞもぞ蹲ろうとするこのばか。
なんだかしみじみとする。
「でも俺は、なんかお前がそうやって落ちてると、逆になんでお前がモテるのかがわかるような気がすんだよな」
そう言うとがばっと及川は起き上がった。驚愕の体で「なんで!」と食いついてくる。
「だって、なんかほっとけねえもん」
頬が緩む。へんなの。
及川は、ぽかんとして俺を見ている。
おしまい
おしまい
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