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2025/01/10 (Fri)
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2014/03/16 (Sun)
「必殺アリスインナイトメアショット」
Comments(0) | ハイキュー!!
岩さん女体化で及岩小説です。
ピクシブで、にょたいわちゃんに弱点があるとしたら、何が弱点だったらかわいいと思いますか?アンケートをしてみたところ、「へび」や「雷」を抑えて「おばけ」が10票超でトップだったので、それで何かを書くというつもりはなかったのですが、「お、おばけが苦手なのか。か、かわいいな」と発電してしまいできた話です。
ちなみに2位は「弱点などない」でした。ですよねー私も何をどう妄想してもそこに行き着いてしまい、でも何かを苦手とするにょたいわちゃんを妄想したかったの…誰かとカンバセーションしたかったの…その苦肉の策のアンケだったの…ありがとうございました。

そしてどんどん苦しくなっていくタイトル

なおこの話は当社比でですが、及川さんの見ている夢が痛々しかったりにょたいわちゃんが女らしめだったりするので、苦手な方は閲覧にご注意下さい。
また、単行本にまだ出てきていないキャラが登場します。あと、及川さんの家族構成を捏造しています。







必殺アリスインナイトメアショット









眠りにつく直前に画像を見たのが悪かったのだろう。
夢に現れた岩ちゃんは、ミニ丈のサンタさんふうワンピースを着ていた。上半身はタイトめで下はAラインになってる最強にかわいいやつだ。俺はなすすべもなく縋り付いた。
「岩ちゃん、い、岩ちゃん。そんな格好で出歩かないでよ」
「おれだって、こんなのやだ」
岩ちゃんは俺の腕を振り解こうとじたばたするが、本気半分なのか、叶わない。
「お前、からかうし」
「か、か、からかうのは」
岩ちゃんの頬が赤くなって、睫がしっとり濡れている様子に、生唾を飲み込む。嚥下の瞬間、絶対聞かせたくはないのに、頭の中にゴクリと大きく音が響いて、俺の顔もぐあっと熱くなった。いわちゃん。
「からかうのは、お、俺のこと見てほしいし、俺の名前呼んでほしいし、俺のこと、俺だけ、叱って、殴って、ほし」
「叱ったり殴ったりなんて、おれだってほんとはそんなこと」
こくん、と岩ちゃんの喉も動く。言葉を飲み込んだようだ。
ほそい首が震えるように動くのも、唇が噛み締められるのも、伝えたくなくて瞳がゆらぐのも、頭がおかしくなりそうなくらいの可憐さだった。気が強くて勇ましい岩ちゃんが、ほんの時折だけ見せる気弱な仕草。いとしさ、せつなさに、俺の体の芯は痺れて燃えるようだ。
岩ちゃんはもじもじと身を捩り、俺の腕の中を下へずり下がって、地面にぺたんと腰をつけた。
「見ないで」
と、体を抱く。襟のファーに赤くなった鼻を埋める。
「や、やだよ、見してよ」
逃げる手を捕まえて広げる。いやあ、と言いながら、ぴったりとした赤い起毛の布をはりつかせた胸が、くい、と俺に差し出される。
「ほ、他の男に先に、見られるとか、ほんと、ない」
胸が、窮屈そうだ。ぱつんぱつんになったところが、岩ちゃんが息をするたびに、くう、くう、と、小さなクソかわいい音を立てて上下している。鼻の付け根から後頭部にかけてが割れるように痛い。
「み、見して」
言いながら首元に顔面を擦り付けると、「や」と小さい声が上がって、冷たい感触が鼻先に触れた。獣の皮のようにやわらかくて、岩ちゃんの体温越しに暖かい布地の中、小さい銀色のスライダーがある。噛んで、歯で引き降ろすと、ファスナーが開いて赤い布地が二つに裂けた。
裂けたところから、血の上ったうつくしい桜色の肌が出てくる。お風呂上りのように、眩暈のするような、きれいなぴんくいろの身体だ。い、岩ちゃんの、岩ちゃんのにおいがする。
いわちゃん。
いわちゃん。
いわちゃん。
い、いわちゃん。
ゆるせ。な、なにもかも、君が悪い。
ぴんくいろにむしゃぶりついた。「やああ」と泣きながら、ファーのついたスカートをもどかしげにはねのけて、岩ちゃんのぴちぴちした足がきゅうとっ俺をつかまえる。引き寄せる。君は悪魔だ。
「おいかわ」と岩ちゃんが泣いている。
岩ちゃんをいじめているのは俺なのに、助けに呼ぶのも俺なのだ。俺しかいないのだ。俺しか知らないように、俺の名を呼ぶのだ。
「おいかわ、おいかわ」
ぐすん、と岩ちゃんが赤くした鼻を啜り上げたので、俺はぶるぶるぶるっと震えて鼻の奥から溢れてくるきなくささを押し殺し、渾身のちからでその喉笛に噛み付いた。





「徹、なにしてるの」
幼い声と、小さい手に、揺り起こされる。
「ねえ、おれ、岩ちゃんじゃないよ」
まぶたを開けると、眩しい。
「まくら、やぶけちゃうよ」
姉の子供が、起こすのに剥ぎ取ったのであろう掛け布団を片手に抱きながら、困惑した目で俺を見ていた。
寒い。
あたたかい岩ちゃんを抱き締めているはずだのに。
口の中に、何かが。
視線をそっと下へ向けると、両腕で強く抱き締めた枕に噛みついていた。
低反発のもっちりした歯ごたえが、なんともいえない。
「鼻血出てるよ」
「猛。ティッシュを」
「はい」
「ん」
「徹。ありがとうは?」
「ありがとう」
鼻腔にティッシュを詰めながら、息も絶え絶えに、応えた。











土曜練の後、着替えをしている男子部室に、いさぎよく岩泉が現れた。
「及川遅せえ。帰るぞグズ川」
「きゃああ!痴女!」
「痴女だー!皆目を合わせるな!」
「目が合ったら妊娠するぞおお!」
大喜びで飛び跳ねる半裸の男子部員らを一瞥し、
「3分だけ待ってやる」
吐き捨てて、扉が閉まる。
「やっべー岩ちゃん無双」
と、もたもたシャツのボタンを留めるペースを速めたらしい及川に、
「なんかあんの」
と花巻。
「甥っこ明日まで預かってんだけど、ねえちゃんが急に仕事入って一人でうちにおいてて、そんで遊園地連れてけるの今日しかないから」
「ゆうえんち」
はああ、と相槌を打つ松川。
「姉ちゃんが約束したくせに行けなくなったって、そら鬼でしょう。義兄さんのぶんもチケットもらってっから岩ちゃんと俺と甥っこで、ばっと行ってばっと帰ってくんの」
「ふうーーーーーん」
花巻が、長い声を出す。
「ナイトイルミとか、今あるよな」
「だ、………だからなんだい」
「……動揺しすぎじゃねえの…」
「いやマジで、甥っ子めっちゃ岩ちゃんっ子だから、岩ちゃんと一緒だと俄然子守りが楽だかんね」
「そうなんだ。岩泉、子供好きなんだ。かわい」
「おっと花巻さんの中で岩泉高感度うなぎのぼりですよ」
松川のナレーション。
だからなんだってんだ、はははは、と及川は乾いた笑いを振りまきつつ、着替えを完了する。
「だいたいマッキーこないだモテてたじゃん。あの子らとどうなってんの」
「まあ、まだ二回目会ってはないけど、メールしてるよ」
「ホラねー」
「でも、俺は岩泉のほうがいいな」
花巻が部室に、大型の爆弾を投下した。
ある者は手にしていた荷物や着替えを床へバラ撒き、ある者は足を滑らせて床に膝を付き、ある者はよろめいて壁に打ち当たり、ある者は鼻と口から液体を噴出する。
「大惨事になってんじゃねえか。間を取ってお前らが付き合えよ」
「まっつんそこは面倒くさがらないでよ!!」
「お前顔こええよ!!」
「強がらないで、自分の気持ちに素直になってみろよ…」
二人とも。と、友人をどこか道ならぬところへ誘導しようとする松川。
「俺、及川のことなんか、す、好きじゃねえし!」
「俺だって実は前からマッキーのこと、き、気になってたとか、ありえないし!」
「え…」
「え……」
見つめ合う及花。
「トゥンク」
松川のオノマトペ。
「う、生まれちゃうよう。何かが生まれちゃうよう」
床に膝をついたまま、怯えて渡のシャツを引っ張る矢巾。
「なんか岩泉さん、先帰ったっぽいですけど」
時として恐ろしいほどの冷酷さを発揮する渡。
「ひええ!おつ!」
片手を振りかざして目の前に立て、茶番の波を断ち切って、及川が颯爽と部室から駆け出してゆく。
「あいつは、アレなんかな」
疾風のごとく出て行った及川を見送り、面倒くさそうな顔のままで、松川。
「本命にはヘタレとかそういう」
「そうなんじゃねえの。俺コレ警戒されてるべ」
「されてるされてる。と思う」
ていうかさ。
「花巻どこまで本気っていうか、岩泉好きなの?」
「このくらい」
と、花巻は両手を肩幅くらいに広げてみせた。
「わかんねえよ」
「いや本気っつうか岩泉よく見たらビックリするくらい隙だらけなんだわ。隙があったらなんか、つつきたくなるじゃん」
「そら誰でもつつきたくはなるかもだけど、実際にはつつかねーよね…」
松川の花巻を見る目が、なんとなく、及川を見る目と、同じ色合いになってきた。花巻はちょっと焦る。
「だって岩泉かわいくね?」
思わず本音に近いものをぽろっともらすと、
「まあ、かわいいよな」
と松川がごく当たり前に肯定したので、花巻は沈黙した。
微妙な空気が、部内にみちあふれる。
「かわいいけど、かわいい以上に益荒男なんですよね」
ぽつりと、沈黙の水面に一石を投じた渡の一言に、全員が激しく頷いた。








「岩ちゃん、付き合ってくれてありがとね。貴重な午後休みに」
「いいよ、猛と遊ぶの久々だし」
「うん、俺も猛と遊ぶの久しぶりだな。だから、俺も猛と手を繋ぎたいな。猛、岩ちゃん離してこっちに来なさい。徹兄ちゃんが手繋いたげる」
「いやだ!」
十あまり年下の及川の甥は、叔父の提案をきっぱりと拒んだ。
「岩ちゃんがいい!」
繋いでもらった岩泉の手を、ぎゅっと両手で握り締めて、断固そう主張する。
「あたしも猛と手繋ぎたいよ。一緒に行こうね」
「うん、俺ね、岩ちゃん好き」
いっちょまえに、はにかむ。
どこかに置いて帰ってやろうか。及川の顔に濃い影が落ちた。
ホームに電車が到着した。うずうず動く猛の手を引き、岩泉は及川と並んで列車の扉が開くのを待つ。
「猛、座んな」
「岩ちゃん座ってー」
「並んで座りなよ」
2人掛けの席を3人して譲り合う。
猛は、「徹ここ」と及川の腹を押して座らせた。
隣に、「岩ちゃんここ」と、岩泉を押し込む。
及川がなんだか気恥ずかしい気分に襲われたのもつかのま、
「おれ、ここ」
と嬉しげに言い放って、猛は岩泉の膝に尻から飛び乗った。腹に手を回して抱き締めてもらってご満悦である。
「岩ちゃんのおひざ~」
「座り心地は?」
「うへへ。ふわふわするう~」
本気でどこかへ置いて帰ってやろうか。
隣で繰り広げられる仲良し劇場に、及川の奥歯はギリリと軋む。
「岩ちゃん胸おっきいね」
無邪気な笑顔で猛が言う。背中にやわらかいものが押し当てられていて気持ちがよいと見える。及川は甥の口を塞ぐべきか否か悩みながら、岩泉の顔をうかがった。岩泉は、地蔵のような顔をして、言葉を選んでいた。
「……猛。なにか、もっと楽しい話をしようか」
あまりにも不器用な話題転換だが、猛は「うん、あのねー」と弾むように語りだした。
「今朝、徹起こしに行ったら、寝ながら鼻血出してたんだよ!」
「そうかそうか、こいつは鼻血癖があるからなーかっこわるいよなー」
「うん!あと、おちんちんも立ってた!」
及川は神に近い速さで甥っ子の口を鷲掴みにしたが、時既に遅かった。放たれた言葉は消えず、満員の車内中から無数のいたたまれない視線が一行に突き刺さる。
顔が、上げられない。
口を塞がれてもがもが言っている猛を膝に乗せ、岩泉は静かに顔を他所へ逸らしつつ、
「……何も、聞こえなかったから」
「……ありがとう」
目線を下に落とせば、スキニージーンズにくるぶしまであるコンバースのスニーカーを履いた岩泉の足が、床を踏みしめている。
その中できゅっと丸くなっているだろう足指を、昨夜夢の中でさんざん嘗め回したのを思い出し、及川は伏せた目を細くした。





マップを広げる。どこから回ろうかという算段をするのである。
「猛、ゴーカートあるよー」
「んー」
甥に提案する及川へ、岩泉が茶々入れをする。
「まずは絶叫系だろ」
「このスピード狂め」
「遊園地っつたらジェットコースターじゃねーか」
そう、この園にはジェットコースター系統のライドが2つもあるのだ。
「岩ちゃんわかってないなー、今日は猛デーだよー。そして猛は車好きだもんな」
「うん。でも、先にジェットコースターに乗ろ?」
ちびのくせに、気を遣うようだ。
「レディファーストだもの」
「「た、たけるーー!!」」
岩泉と及川は仰天した。絶叫が綺麗にハモる。
「いい子だな、たけるーー!!」
幼子を抱き締める岩泉。
「レディがどこにいるっていうんだい、たけるー!!」
空へ向かって叫ぶ及川。
岩泉は無言で猛を抱え上げた。
「さあ、岩ちゃんと行こうな猛ー!!」
「うわあ人攫いだよおー!!」
駆け出す岩泉と猛追する及川。
しばしの疾走ののち、
「ここはどこだ」
「地図を見よう」
「徹…。岩ちゃん…。」
低学年児童に呆れられる一徹コンビ。
「お、おいかわ。猛の視線から年長者への敬いが薄れつつあるぞ」
「挽回は任せろ岩ちゃん」
「こそこそ喋らないでよう」
小声で話すため、顔の距離が近くなる及川と岩泉の間に、猛がぐりぐりと割り込んだ。
押し合い圧し合いしながら、なんとか回転式コースターの乗り場に到着する。
絶叫系の名に恥じぬ阿鼻叫喚の声が、上空から降ってきている。
いざ乗ろうという段になって、
「どうぞ岩ちゃん」と先に乗るよう促した及川が、
「レディーファーストだよ!」
岩泉はものすごい目で及川を睨んだ。
「切り刻んで焼きそばの具にしてやろうか」
「なんで!!?ねえなんで!!?」
及川の絶叫は、レーンの高みを見下ろす青空に溶けて消えた。




「ねえ、岩ちゃん。徹、どこ行ったんだろうね」
「さあなあ。着信入れといたから、そのうち連絡あるだろ」
岩泉は猛の手を引き、そこそこに混み合う園内を歩いている。オレンジ色の石畳がまばゆい。
「迷子になってないかなあ」
「夕方になっても見つからなかったら、放送で呼び出そう」
ショップで土産を冷やかしている間にはぐれたのだ。仕方がないので観覧車には二人で乗った。
「このへんでちょっと座って休憩してようか」
「なんで?岩ちゃん」
「あそこでホットドッグ売ってるだろ」
「うん」
「及川が来るかも」
猛は、首を傾げる。
「徹、あれ好きなの?」
「ううん、ホットドッグはあたしが好きなの。だから及川来るかもしんない」
よく、意味がわからない。猛の眉毛は八の字になった。
ひとまず、歩き疲れてもいたので、並んでベンチに腰掛ける。足をぷらぷらさせる猛の頭を、岩泉が撫でた。
及川には歳の離れた姉がいる。猛と変わらないくらいの歳時分から、及川家に頻繁に遊びに行っていた岩泉は、その姉にもたいへん世話になった。猛はその姉の長男である。生後数日のころから知っている。自分の弟に近いくらい、かわいかった。
「ねえ、岩ちゃん」
と、その弟に近い猛が言う。
「なに?」
「おれね、今日ここで行きたいとこが、もう一つあって」
「ふうん。どこ?」
「あそこの、あれ」
「……」
明るい風景の中の一点、あまり見ないようにしていた所を、ピンポイントに小さい指が指し示した。
あそこはね。と、岩泉は静かに答えた。
「やめておこうな」
「えぇえ。どうして?ダメなの?」
「あそこは、よくない。とてもよくない」
「でも、学校でもすごい話題なんだよ?CMでもすごいやってるよ?」
「だめだったらだめだ」
でも、と猛が涙ぐみ始める。
「おれ、岩ちゃんとなら、入れるって思って」
岩泉の顔色は平静だ。猛、と幼子の名を呼ぶ声は、静かで、それでいて重かった。
「岩ちゃんはな。お化けとかそういうのが駄目なんだ」
猛の指し示す場所に大きく構えているのは、プレハブのパビリオン。お化け屋敷だった。禍々しいオーラが迷彩色の外壁から、いかんなく立ち上っている。
「え……岩ちゃん、恐いのダメなの?」
「ダメだな」
「おばけ、こわいの?」
「あのな猛」
岩泉は隣の子供を抱き寄せた。
「たとえばすっごい悪いヤツでも、殴れば気絶するだろ。ものすごいミサイルが降ってきても、ミサイルで打ち返したら大丈夫だろ。でも幽霊とかはな、どんな事をしてもな、効かないんだよ。呪ったり祟ったりしてくるんだよ。こっちが何も悪い事してなくてもそういうたちの悪い因縁のつけかたをしてきて、そして殴ろうがミサイろうが効かないんだよ」
「でも、あれ、つくりものだよ」
「それが不道徳だと言うんだよ。死んだ人間の真似して脅かすとか絶対やっちゃいけない事だろそうだろ。そもそも恐いことを楽しもうという発想が不健康そのものだよ。人間として間違っている。正しいことをしよう、猛。及川見つけたらパン食って家帰って宿題とかしよう」
でも、でも、と猛は追い縋った。それが明白に悪い事やひとりよがりでない限り、岩泉はいつだって猛のいうことを真剣に聞いてくれるのだ。
「ここのあれ、すっごく評判なんだよ。ものすごく恐いってみんな言ってるんだよ。ほんものみたいな幽霊とかおばけとかいっぱい出てきて、びっくりする恐い仕掛けがいっぱいあって、大人でも泣いちゃうくらい恐いって評判なんだよ。本物のお化けもまじってるってうわさもあるんだよ?白い服で入ったら出てきたときには血が付いてるんだって。家に帰ったら肩が重かったり、頭が痛かったりするんだって」
「猛。おまえの営業トークは岩ちゃんの決意を硬くするばかりだ」
岩泉は重々しく言った。
「いいか健康的に生きようぜ猛。家に帰ったら宿題して美味しいご飯食べて、お風呂に入って寝ような」
「お風呂?」
猛が反応した。
「岩ちゃん一緒に入ってくれる?」
「いいぞ。背中を流してやる」
「ほんと?」
猛の顔に、笑顔が戻ってきた。
「おっぱい触ってもいい?」
岩泉の表情が、すーっと静けさを増す。
「……猛。なんか、今日たびたび、引っかかってたんだが、お前はあれか第二次性徴期とかそういうあれか?そういう目で見ているのか?無邪気なあの頃の猛は過去の猛なのか?」
「かこってなあに?」
「……何でもない。胸には触るな」
「えー。わかったー」
やや残念そうに、猛。
しかし概ね平和な二人の背中に、
「ああ、よかった見つかった!岩ちゃん、猛」
待っていた人物の声がかかる。
おお、と振り向いた二人の目に飛び込んできた及川は、女子を3人侍らせていた。
「えっ、だれ」
とびっくりする猛の隣、岩泉は遠い目をする。俺の幼馴染はなんでこんな漫画みたいなんだ。
「トイレ行ってたら二人とも消えちゃってるんだもん。そしたら奇遇な出会いがね」
こんにちはー、と挨拶してくれる女の子の中には、岩泉にも見覚えのある顔がいる。同じ学校の下の学年の、誰かなのだと思う。こんにちは。
「私たち、血みどろ地獄行きたかったんですけど、女の子だけだと恐いねって話してたんです。そしたら、及川先輩がいて、すっごい頼もしいから、一緒に入ってくれませんかってお願いしたんです」
血みどろ地獄。あれの、アトラクション名らしい。岩泉はすこし気が遠くなった。
「及川さんって3人兄弟ですか?」
「もー、ちがうよー!あの人は岩ちゃん先輩なんだよ」
「へーあの人もバレー部なの?」
「そうだよお。うちの学校では有名なんだよお。私のやってる部でもねえ」
「あーちょっと」
と及川が、女子のさえずりを遮った。
「猛おいで。行きたいって言ってただろお化け屋敷」
「え、いいの。徹、へたれなのに」
「へたれと恐がりは関係ありません!」
憤慨しつつ、へたれを肯定する及川。
そうして、なんだかんだ、及川は猛を連れて女子三人を伴い、おどろおどろしいパビリオンへ消えていった。
「おれほどじゃないけど恐がりのくせによう」
むぎぎ、と歯軋りをしながら、荷物番の岩泉。
「おばけなんか嫌いだい」
出自不明の腹立たしさに、今度は自分がぱたぱた足を暴れさせる。




しかしその15分後。
「なんでこんな」
と、岩泉はまさにその血みどろ地獄の真っ只中で、うずくまっていた。
「おいかわあ」
漏れた声には殺意の響きがある。
長く待たせる、とぼんやり待っていた岩泉の眼前で、建物の出口らしき黒幕から及川達がぽろぽろ出てきたのが15分弱前のことだ。
「まいったまいった」
及川は両手に女の子をぶらさげて、足をかくかくいわせていた。
「こわかったよー」
「こわかったよう」
女の子たちは及川に触れて嬉しそうである。
ひー、普通に腹が立つ、そして腹が立つ自分が気持ち悪い、と岩泉は思った。
「岩泉先輩い」
見覚えのある娘が、迎えに立った岩泉に抱きついてきた。
「すごい恐かったですよお」
うひゃあ守りたい。
「そうか。もう大丈夫だよ」
「岩ちゃん。前から思ってたけどなんでそんなに女の子には愛想がいいの?怪しいよ?」
なんでこんなかわいい娘に、こいつがちやほやされなくてはいけないのか。
「人間のクズは黙っていろ」
「なんでそんな辛辣なの!?」
岩泉は、ふと、視線を下方へ向けた。左右に、彷徨わせる。
「猛は?」
「え?」
及川も、辺りを見回した。
「いないですね」
女子も、首を傾げる。
「どこではぐれたのかな」
「途中から恐すぎて走っちゃったから」
黒幕の向こうから、人ならぬ物の怪が呻く、効果音が響いてくる。
「あー」
途方に暮れた声を出す及川の顔と、迷彩の壁の出入り口を、岩泉の視線が3回ほど往復した。3回目の岩泉の横顔を見た及川は、なんだかいやな予感がした。
岩泉の肩に置こうと、出した手が空を切る。
「あれっ、消えた」
「消えましたね」
「消えましたね」
そう口々に言う女の子たちだが、視線はアトラクションのエントランスゲートに注がれている。
なんか、あそこ、入っていったような。
「えええええええええええ」
叫ぶ及川。
「うええええええええええん」
出口部分から姿を現す号泣の猛。
「ええええええええええええ」
「うえええぶえええええええんとおるのばかあああああああああ」
泣き方がトトロのメイちゃんみたいになっている。
及川は、泣きじゃくる甥っ子を知人女子に預け、自分もエントランスに再度走った。
「なんか、及川さんて最初見たときイケメンて思ったけど、ちょっとイメージ違うね」
「へたれっぽいね」
「でも、やさしーんだよ。岩ちゃん先輩のおしゃれ写真、先輩のお母さんに見せたら喜ぶからって。あ、いけない、これ口止めされてたんだった」
「写真て?」
「ちょっと部活でね」
「あんた部活ってなんかやってたっけ?」
「やってるよお、社会科学研究部」





そして、岩泉は、動けなくなっているのだった。
途中までは、何とかなった。とても必死だったので。
しかし幼女の手鞠歌が聞こえてきたあたりから心臓が。いやもう、内臓が。
ついさっき、血染めの髪を振り乱しながら追いかけてくる青ざめた女を振り切ろうと走っていて、壁に行き当たった。女はどこかへ行ってくれたが、心臓が、まことにきゅうきゅう悲鳴を上げている。休憩しよう。そこでしゃがみこんだら、色々と。
もう。
振り返りたくないよう。
でも猛が。だいじな猛が。
そうだ、何か、何か気の紛れることを考えてから立ち上がろうと岩泉は思った。
楽しいこと。腹の立つことでもいい。
「お、及川」
そうだ、ここから出たらまず及川を殴ろう。もう女の前だろうと殴ろう。
おれをかばって自分がここ入ってくれるのはいいけど、猛忘れるとかツメが甘いじゃすまねえだろう。
「わーん」
おいかわ、と呼ぶと、けけけききき、と奇怪の嘲笑が応える。やだあああ。
肩に、ぽんと、手が置かれた。
「あっ、おいか」
顔の皮が半分ない人間が、肩越しにそっと覗き込んでくる。
岩泉は、無言で見返した。
しばし見詰め合うと、去って行った。
膝が崩れる。
うおおおおおお。おいかわあああああああ。おれの精神が限界だおいかわ。
心の安定を取り戻そうとすると、及川への罵声になる岩泉。おのれおいかわ。
あのへたれ男のせいでこんな目にあっているのに、そのへたれ男の名前しかもはや口から出てこないのだった。
へたれでもクズでもソバの具でも、呼べば来るのだ。ちがう。来てほしいのだ。十やそこらからずっと一緒だった、これからだってそうなのだから今ここにいないとおかしいだろう。助けろ及川。お前の岩ちゃんはここだよう。
何も壁をぶち破って現れろとか、おばけをみんなやっつけろとか、白馬に乗せて連れ出してくれだとかそんな無茶は言わない。そこまでの期待をお前にはしていない。ただ、隣にいてくれるだけでいい。隣にいてくれるだけでいいよ。

そして及川は、じっさい、深刻になる必要のない距離まで迫っているのだった。






首に嬰児をぶらさげた蒼白の女にがくんがくんした動きで追いかけられながら、及川はふと、先ほど同じ道を通った際には見当たらなかった障害物に気が付く。
「うわあああん」
叫びながら思い切って取って返すと、蒼白の女もするすると赤黒いライトの外へ消えていった。恐い。もうホント恐い。
「岩ちゃん?」
扉に封魔札の貼られた地蔵堂と、投函口から人の指が覗いている旧式ポストの間に、大きな丸い物体が置いてあった。
若干通路にはみだしており交通の妨げをしているので、さっきは絶対になかったはずだと及川は思い、その物体をゆさゆさと揺する。
「岩ちゃん、岩ちゃん」
物体は、岩ちゃんなのであった。
「ひええ、岩ちゃんが岩になっちゃったよお。人間に戻ってくれ岩ちゃああん!」
「ううう」
必死に呼び掛けた甲斐あってか、岩が呻いた。
「いわちゃーん!岩ちゃんの及川さんが来たよー!もう恐くないよおー!」
「ううう。お、おんなの人が。落ち武者が。み、緑色の目が、いっぱい。うう。首から血が。女の子が、う、歌って」
「大丈夫だよー全部うそだから!うそだからねえ」
丸くなっているのを抱きかかえ、よしよしよしよしよしと撫でさすりまくっていると、ほぐれてきた。人の首が出る。
「お、おいかわ?」
「イエス。イエスだよ岩ちゃん」
「スパイク」
「トストストス」
「おいかわあああああ」
「ああ良かった、岩ちゃああん」
両腕を広げた及川の頬を、岩泉の拳が真っ直ぐな軌道を描いて打ち抜く。
「おいかわああああああ」
「あぶ、おっ、いわ、う」
連打である。
「がふ、おっお、おれが、悪かっ、がぶっ、ちょ、ぶふほ、いわ、」
「うわあああああん」
腕が上がらなくなるまで殴ってから、ようやく岩泉は及川に縋り付いた。
「だ、大丈夫。岩ちゃん腰が抜けかけてるから及川さんダメージ少ないよ。大丈夫」
岩泉の両腕が及川の背中に回り、締め上げる。及川の肋骨は悲鳴を上げた。
「あだだだだぎぶぎぶぎぶぎぶ」
き、と岩泉の涙目が、及川の涙目を睨む。至近の下からだ。
「ばかっ」
怒りに震えながら、安堵に声を潤ませながら、震える拳で詰られる。
「ばか及川。猛が。た、たける。」
どこかで泣いているかもしれない、可愛い弟分の名前を口にしたとたん、岩泉の目頭に熱いものがせり上がってきた。
「た、たける。たけるが~…」
喉がわななく。涙腺の決壊が近い岩泉の頭を、及川は胸に抱え込んだ。
「ああああ、あああーもう、そ、そんな顔で他の男の名前を呼ばないでくれ」
「う、うぐ。ひぐ」
「た、頼むから。あああ」
髪の毛や襟をくちゃくちゃにしながら包み込んで、鼻が潰れるくらいの強さで胸に押し抱こうとする及川の手を、岩泉はなんとか引き剥がす。
「も、もう。や」
両手で目をこすると、及川の手に止められた。手首を掴まれて岩泉は、うう、と赤い顔で唸る。
「あ、」
ひりつく喉で、無理矢理一度だけ唾を飲み込み、及川は声を出した。
「赤く、なるよ」
もうなっていた。
目元と頬に血が上った赤は、いじらしさに眩暈がするような、触れずとも見るだけで腹の中が沸騰するような、幼さで、あたたかさで、清らかさだった。
瞳は、見ているこっちの目まで溶けるんじゃないかと思うくらいに、とろとろになっている。
及川の心臓は、どてっぱらは、脳味噌は、この瞳にもう何年も前から幾万回と打ち抜かれ続けて、今や生きているのか死んでいるのかわからないような心地だ。
「い、いわちゃ、あのね」
息も絶え絶えになりながら、告げる。
「た、猛は。あのあと、すぐに出てきたから。もう、外で待ってるから。心配ないからね」
うへ、と岩泉は、鼻から魂が出て行くような返事をした。
「うわわ、岩ちゃん」
膝が折れて、崩れそうになる岩泉を、及川は脇の下へ手を差し入れて支える。
「よ、よかった。よかったけど。ううう」
「さ、脱出しよう」
立って歩いて、と促されるが、どうにも足取りが覚束ない岩泉。かよわき幼子を魑魅魍魎の輪から救い出す、という使命感が喪失して今や、もう恐いところには一歩も足を踏み入れたくないのである。及川も、気持ちはわかる。
岩泉の手をとって、自分の腹と背に回させた。
「ぎゅっとつかまって、目を閉じておいで」
そして先ほどよりはずっと紳士的な所作で、岩泉の頭を胸に抱き込んだ。
「耳は、こうやって塞いでおくからね。足元にだけは気をつけてね」
しかし岩泉は、ぷるぷるぷる、と頭を振って、及川の腕から顔を上げた。
「お、おいかわ」
「なに?目ぇ開けてたら怖いのいっぱいくるよ」
「そ、そじゃなくて」
「うん?」
岩泉の頬の赤さが、じわじわと濃くなる。
「おれ、そんな、変な顔してる?」
「ん?」
「顔、赤いから?へんかな?そ、外出るまでに、治るかなあ」
「べ、べつに、変ではない」
「でも変な顔してるって及川言った」
言ってない。
そんな顔で他の男の名を呼ぶなと言ったんだ。後半をきちんと聞いてくれないか。
及川は天井を仰いだ。大丈夫だよ、と喘ぐ。
「あぁあ、ゆ、夢より100倍かわいいよ」
「及川。なんかいる」
「だから、きちんと聞いてくれないか」
余所見をしている岩泉にならって、及川もそちらを見る。地蔵堂から異様に下腹部を膨らませた頭が二つある血まみれの人間が出てきた。膨らんだ腹がぽこぽこと波打っている。
及川は、岩泉を肩に担ぎ上げて走った。




及川が岩泉を抱っこしていたはずが、屋敷内のあらゆる箇所で驚かされたり足を止められたり追いかけられたりしたせいで、気付けばいつのまにか岩泉が及川の首を抱えて引きずっていた。
「わーん、岩ちゃん!」
外に出た瞬間、外界の光に瞳を射られて棒立ちになる岩泉に、猛が飛びついてくる。
「いわちゃん!ごめんね!おれのために、お化け屋敷に入ってくれて、ごめんねえー!」
死人の顔をした岩泉に縋って泣きじゃくる猛を及川ごと引きずり、
「猛、猛は悪くないよ。おれは大丈夫。悪いのはこいつなんだから」
ホットドッグの屋台の前まで来て、立ち止まる。
「これを買え…」
と腕中の及川に指示すると、
「い、いわちゃん。そろそろ及川さん落ちる。く、首。首が」
「おらよ」
手を離されて、地面に崩れ落ちる及川。
それでも何とか立ち上がり、財布を出し、3つ買い上げる。岩泉は蒼白の無表情で、もっしもっしと頬張った。忘れたい記憶と共に、腹に収めているのであろう。
猛の様子を見てくれていた3人娘が、たいへんでしたね、出てこられてよかったですね、とお辞儀をして手を振り、去ってゆく。この状態でも愛想をかき集めて笑顔で見送る及川を、岩泉は少しだけ尊敬している。笑おうとしても岩泉はどうしても、口の端がひきつるのだ。双頭の亡者の腹に浮かび上がっていた、苦悶の人面のことを一刻も早く忘れたい。






こうした諸々による疲労のせいだろう、帰りの電車内で岩泉は爆睡だった。枕にした及川の肩に涎が垂れている。
その岩泉の膝には、猛の頭が乗っていた。
こちらもすっかりおねむで、と思いきや、
「ねえ徹」
と、目の冴えた声で甥が伯父を呼ぶ。
「どうした、猛」
「おれも、岩ちゃんほしい」
ほしい、とは。
及川は空中を睨み、口を閉ざして考えた。
「徹はいいなあ」
そう言って頬っぺたを岩泉の膝の間に摺り寄せる猛の方こそ、及川としては。いろいろ。
座面に落ちている岩泉の指を、手の中に攫う。
俺の岩ちゃんだ。そして岩ちゃんの俺だよ。
かけがえがなさすぎて、呼吸もできない。
目を閉じて祈った。
たとえ夢の中へだってきっと助けにゆくから、俺の名前だけ呼んでいておくれね。
おしまい

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