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「くそが、坊主め。可愛げのねえ」
阿含は忌々しげに唸った。
自業自得ですよの言葉を飲み込み、一休は黙ってその傍らを進む。
常習の遅刻であっても、誰もが阿含の素行を諦めていても、彼の双子の兄の雲水だけは、阿含が練習に遅れるだの無断欠席するだのすればきっちりと怒る。一応ではあるが、まっとうな内容の叱咤諸注意を毎度とがなりたてる。
毎度とは、ほぼ顔を合わせるが度ということで、よくぞ心折れないものだと部員一同は感心している。
「昔ぁ可愛かったのによー」
「え!」
阿含の漏らした愚痴に、素早く反応する一休。
可愛かったのか!そうか、そうかも、ですよねえ。
脳裏に生み出される妄想の数々。ランドセルを嬉しそうにしょった6つやらそこらの雲水が、えへへ、と照れ笑いしている姿。地面にぺたりと尻をついて座り込み、小便を漏らしたとひっくひっく泣きじゃくる4つ5つそこらの雲水。熟れたりんごをしゃくしゃく頬張って、甘さにきゅうっと目を閉じる半ズボンデビューくらいのよちよち雲水。
全て妄想。妄想です。妄想は偉大。
「何考えてやがる」
「いだいいだいいだいいだいいだいだいだいっす」
「ちっ、手が腐る」
「人にアイアンクローかましといてアンタ」
一休は恨みがましい目で阿含を見るが、どこ吹く風と無視される。口の利き方がなっていないと拳で教育的指導をふるわれない分、今日はまだ機嫌が良いようだ。
「で、昔は可愛かったって、どんなんなんすか」
「・・・・・・」
「雲水さん、さぞ子供らしくない子供だったってカンジするっすけど、でも子供は子供っすもんねえ」
「・・・・・・」
阿含が口を開いたのは、語りたかったからだ。聞いてくれよたまんねーんだよ、あー思い出してもたまんねー。
「3ヶ月くらいん時、パイル地ってあんじゃん。アレの産着でよ、なんでかオレの袖がアイツのお気に入りでよ・・・いつもしゃぶってたんだよなァ」
一瞬の間を置いて。
「かわいいっすね!!?
でも昔っつって限度ありますよね!!?
3ヶ月の記憶があるって阿含さんやっぱ人間じゃないっすね!!?
ていうかソレはもう惚気っすよね!?
わかっちゃいたけどブラコンが度を越してますよね!!?」
「一休すげえ全部につっこみやがった!」
「そんな一休にすかさずツッコむゴクウもすげー!」
「まじで!?おれスゴい!?」
「すげー!」
「すげーよ!」
背後で盛り上がる西遊記メンバーの歓声を、一休は本気モードの阿含の握力に頭蓋を圧迫されながら、遠く、遠くで、聞いていた。
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おしまい
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