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2012/05/16 (Wed)
「龍の気持ちで5のお題」
Comments(0) | ES21:双子
一回お題というものに挑戦してみたかった!
だいたい阿雲な双子な感じで小ネタ5つです。


龍の気持ちで5のお題

1、高みを目指してみませんか?
2、何があろうと許しません
3、幼き頃より違ったと
4、雨でも降らせてみましょうか
5、「……蛇?」

- 意味 -

1、昇り竜
2、逆鱗
3、竜は一寸にして昇天の気あり
4、水を司るモノ
5、海に千年、山に千年住んだ蛇は竜になる










昇り棒。
小さい頃はよく遊んだものだ。雲水は感慨深く、車窓から母校の校庭を眺めた。
「何見てるんスか」
一休が身を寄せてくる。
「もう通り過ぎた」
「えー、なんスか~」
「通ってた小学校、さっき通り過ぎたんだ」
「えー」
声を発したのは一休だけでなく、にわかに試合帰りのマイクロバス内がざわつく。
「あー、雲水実家このへんなんだ!」
「へー」
「小学校…」
金剛兄弟にも子供時代があるのである。間違いない。当然である。なのに、なんだか、一同、「おお…」と変な感慨を覚える。
「自分たちが遊んでいた時と、変わらないなあと思って」
「へー。雲水さんと阿含さんて小学校でどんな遊びしてたんすか」
俺はけいどろっすねー。小学校が違うとドロケイって言ってたりするんスよね。あれマジカルチャーショックってやつなんすけど。
そう続けてゆく一休に、後部座席に固まって座っている一年がぼそぼそと囁き交わす。
「それはどうでもいい」
敬われていないわけではないのである。金剛兄弟の幼少時代という話題がレアすぎるのである。わりと仲の良い同年代勢力ですら、おいそれとは触れにくい部分なのだ。
「昇り棒、やったなーと思って」
見てた。と語る雲水は、彼にしては珍しく年齢相応に頑是ない。
「あの棒を昇るやつっすか。へー」
もっとましな相槌を打てよと、周囲で聞き耳を立てている一同は思う。
「なんか、一時期、阿含がはまってて」
「阿含さんが?」
この時、車内における人数の2割弱が、胸の内にざわつきを覚えた。
「3、4年くらいの時かな。猿より早く登れるくせに、なんか、あの遊具だけはしばらく飽きなかったな、あいつ」
「高いところが好きだったんすかね」
「と言うよりも、昇ったり降りたりの過程に執着がある様子だった」
ざわつきが、車内の4割強に拡大した。
「特にてっぺんから一気に滑り降りてくる時とか、やたら恍惚とした顔をしていた」
7割を突破した。一休の顔色も若干土気を帯びてくる。
「…そ、…そ、そっすか…」
雲水は頷いて、窓の外に視線を戻した。
信号待ちで、バスが停車する。その脇の歩道は通学路なのだろう、黄色い交通安全のカバーをかけたランドセルを揺らして、手を繋いだ幼子たちが小鳥のように列をなしてゆく。
「なつかしいなあ」
誰一人、相槌を返せる者がなかった。
一休は、そんな雲水を、これから守ってゆきたいと思った。






金剛兄弟が新龍寺ナーガに入部して、まだ間もない頃のこと。
「雲子ちゃん、俺のも片しといて」
「自分でしろ、ばかもん」
「ああ゛?片しとけっつってんだよ雲子」
険呑な声音に、静まり返る部室。私服に着替えた阿含が左右のロッカーを蹴り飛ばしながら表へ出てゆく。
雲水は溜息をついて、阿含の散らかしたウェアを拾いに床へ膝をついた。
空気を読もうとして若干読み違えた先輩方が、
「え、雲水、雲子ちゃんなの」
「大変だなあ、雲子ちゃん。ははは」
乾いた笑いを収めるより先に、
ばん、
と先ほど閉まったばかりの扉が跳ね開けられて阿含がずんずんずんずん、数歩で接近するや仮にも先輩の襟首を締め上げて
「誰が雲子だコラ…」
「えっ、だってさっき」
「誰の雲子だコラ…」
「えっ、だって…」
「阿含よせ」
止めに入る雲水の目には、なんだか長年の疲労が蓄積していた。






双子の片割れは時々不気味だった。得体が知れない。
なんでも俺のほうがよくできた。テストはいつもオール100だったし、体育も芸術も1番以外になったことがない。怖い物などなかった。
見た目の造形が生き写しの片割れは、そこまで出来た奴じゃなかった。一言で言えば普通のこどもだった。それでも性格は素直で真面目だったし、ガキにしちゃ利発な方だったと思う。弁が立った。
かわいげなら、兄弟揃ってあまり無かった。けんかはよくしたが、仲が悪くもなかった。
片割れの兄は、時々地獄の果てでも見えているんじゃないかという目をして、どこかを見ていた。
俺のできが良すぎるせいだった。同じはずなのになんで違うのか、俺にも疑問はあった。兄の中では疑問に答えは出ていたらしい。人知れず何かしらを悟った色のない顔は、怖い物などなかったはずの俺の背筋を寒くした。
抗わずに、耐えるでもなく、何かを見つめているだけの兄の顔は人のものではないようで、静かな瞬間を目撃するたびにぞっとした。こいつは将来、どんな大人になるんだろうか。






雨が降ればいいのにと思った。降れ降れと念じたら、本当に降った。豪雨だ。自分に不可能はないのではないかとうすら寒くなりながら、阿含は石の階段をのぼる。
川につかってきたのかというぐらいに雨水を垂れ流しながら帰還した弟の姿に、雲水は床から腰を浮かせて驚いた。
「まず上着を脱げ」
兄に命じられて、あまりの雨脚にちょっと茫然としていた阿含は、おとなしく従う。頭からバスタオルがかぶせられた。
兄が、水を吸って重くなったジャケットを、ハンガーにかけて窓先に吊るす。力ない弟の手から、これもまた重たくなったカットソーを受け取って、ハンガーに通しながら、切なそうにこちらの足元を見た。
べちょべちょの靴下で床を踏んできたものだから、阿含の足元は雑巾のようになっている。
「…情けないなあ、お前。早く脱げ」
「うん」
「シャワー浴びてこい」
「うん」


綺麗になってあたたまると、元気が出た。
「もう寝る」
仁王立ちで宣言すると、兄が床を延べてくれた。何だかよくわからないが不憫がられている。
布団にくるまって、机に向かって書き物をしている兄の坊主頭を見上げた。
しょせん、自分は17歳のガキだ。精力を持て余して見た目からとんがっただけのどうしようもない悪ガキだ。なぜ、自分に不可能はないなどと、一瞬でも思い上がれたのかわからない。
兄の坊主頭を見ていると、わからない。
わからなくなる。
思い通りにならないことばかりじゃないか。
「おやすみ、阿含」
兄の一声が睡魔を呼んで、阿含の意識は雨音に溶けた。







目覚めると、弟の肩を枕にして眠っていた。
「起きた?」
声も掛けないのに、携帯を片手でいじくっていた弟が察する。
肩に顎を預けたまま頷いて、バスの停留所の表示を見る。新龍寺まではもう2駅だ。座席のぬくもりが心地よく、ついうとうととしてしまった。
街からの帰り道、偶然行き会った弟は、美容院帰りのきつい臭いがした。
「こういう整髪料は髪によくないんじゃないのか」
まだ重い瞼を半開きにして、バスの振動に身を任せて揺れながら、弟の頭皮を探る。
「ヤメロ」
弟が歯をむき出したので、頭はやめて毛の先を握る。
「変な髪だ」
「かっこいーっていうの」
「蛇みたいだな」
握りこんだ親指でドレッドを解す真似をしていると、
「てめーは蛇にそういう顔すんのか」
と唸り声を上げた弟に片腕で抱き込まれた。









終わり


楽しかった!

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