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2025/01/10 (Fri)
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2014/01/04 (Sat)
「必殺スリーピングパイルドライバー」
Comments(0) | ハイキュー!!
岩泉女体化で及岩前提の、牛岩…?です。捏造楽しいです。














必殺スリーピングパイルドライバー







県立体育館で及川を探して彷徨っていると、仇敵と遭遇した。
げ、と思う内心が、顔に出てしまったかもしれない。岩泉はぎこちなく相手に会釈をした。牛島も、会釈を返す。どうも、どうも、と思いつつ、場を後にする。
くそー抽選会終わったらどこにいるんだ。おばさんから預かったお弁当がいろんな意味で重い。メールなんか無視すればよかった。
角を曲がると、再び牛島と出会った。なぜこっちに移動しているのか。岩泉はまたも会釈する。牛島も、会釈を返す。
通り過ぎてから携帯を取り出し予測変換機能のみで三言打ち込み送信。『今どこ連絡しろバカ』3秒でこなした。額に血管が浮いているのがわかる。
「あの」
背後からの低音に飛び上がった。硬く小さくなった背中がびょくん、と跳ねるのに、声をかけた牛島もちょっと驚く。
「あ、すまない」
「いや、あの、何?…ですか」
「及川なら」
と、今しがた送信した相手の名が挙げる。
「上の会議室で取材受けてる」
「ああ」
合点がいく。
「すぐ終わると思う」
「あ、ありがとうございます」
岩泉は頭を下げた。
礼を言われつつも、必要以上に距離を取られているような気がして、牛島は僅かに首を捻った。捻りつつも、用は済ませたので背を向けると、「あの」と今度は呼び止められる。
「おれのこと、覚えてるのか」
言ってから、後悔したような顔をする。
おそらく同年の、女子生徒だ。すらりとしている。
もう少し背があれば理想的な選手体格だろうが、自分より頭ひとつ下から見上げてくる角度からして170には届かない。眼光は鋭いが、少し揺れている。自分が恐いのだろうか。
「及川の彼女だろう。試合の時によく一緒にいるのを見るから」
覚えている、と続けてから、牛島は黙り込んだ。
気温が、下がったと思った。
空気が鉛のように背に肩にのしかかってくる。重い。床から冷たいものがせり上がって来る。息が、苦しい。
目前の少女の目だけが光っている。あとは闇だ。少女の目は、冷たい光だ。牛島には今、本物の殺意が向けられている。
「取り消せ」
誰が彼女だ。
その声すら、床に開いた穴から響いてくるかのように温度がない。
「すまなかった」
なんとか声を絞ると、
「わかったならいい」
と空気から重圧感が消えた。
気が付くと、いやな汗に総身が濡れている。
この女は、戦士だ。牛島は色々と気をつけようと思った。
その女子生徒は白い床を睨みながら、覚えてねえんじゃねえか、と唇を尖らせてぼやいている。
「どこかで、会ったか」
顔は前述のように及川とセットで見覚えてはいるんだが、名前だとかに全く覚えがない。知らない娘のはずなんだが。
「いや、覚えてなくて当然だ。お前にとっちゃ、その他大勢の内の一人だろうしな」
ん?
「おれにとってはそうじゃなかったけど」
んん???
愕然とする牛島に、じゃあ、と片手を上げて少女は背中を向けてしまった。かつかつと踵を鳴らしながら去っていく。
待ってくれ。いや、待たなくていいけど待ってくれ。
覚えていない。本当に、全く、俺には覚えがないぞ。
立て続けに頭を揺さぶられたかのように眩暈がする。
俺は、及川とは、違う……。
牛島はしばしその場に立ち尽くし、襲い来る頭痛に耐えた。






女戦士の姿を再び見たのは、それから一ヶ月ほど後のことだ。
女子部が他校を迎えて練習試合をするというので、なにげなく目をやったらあの女がいた。
(い、いた……!)
と、悪い事をした覚えなど一つもないのに緊張が走る。
牛島はバレーに関しては県下でかなりの有名人なので、他校の女子などが来たらものすごく注目されるのが常だ。女に興味がないとはいわないが集中を欠かされるのが疎ましくて、どんと構えてバリアーを張るのがいつものことなのだが、今日はちょっと、動く。
「あれ、牛島、珍しい」
「女子の試合見るの」
「なんとなくな」
体育館の対角線上の遠いところで、あの少女がずばっと上着を脱いでいた。動作がいちいち勇ましい。しなやかな筋肉がまとまって若木のような美しい腕だ。
年頃の娘らしい形にTシャツが膨らんでいて、ふくふくした双丘から細い腰に布がはためいていて、そこに、「根性論」。
「根性論…」
隣で一緒に見学していたチームメイトが呆然とこぼす。
「ごついの着てるな」
「神風とかよく見るけどな」
「漢字の漢と書いて『おとこ』とかな」
牛島は。
それどころではなかった。
「牛島?」
「なんか顔蒼くね?」

思い出した。

手慰みに持っていたストロングタイプのハンドグリップがガシャンと音と立てて地面に落ちる。
思い出した。
「牛島?」
本人だ。間違いなく本人だ。思い出した。対戦相手の顔は忘れない。小学生の最後の試合で完膚なきまでに叩きのめした。猫科の猛獣のようなウィングスパイカー。球を吸い込んで打ち出す砲身。10人並とは言わないが、俺の敵ではなかった。
女だったのか。なんで。
抜いたカーデを畳んで仕舞い、青葉城西VBCのレギュラージャージに袖を通している。肩をぐるりと大きく回す。
あの腕が叩き下ろす。牛島は知っている。

おんなだったのか。
なんで男に混じっていたのか。
名前は確か。

岩泉が振り向いた。目線を巡らす。探されているのかと一瞬心臓が跳ねたが、部員への合図だったらしい、集合がかかる。猫科の肉食獣。
眼光に射られれば、疑問も混乱も焦燥も吹き飛ぶ。
6年間の眠りから覚めたような気持ちで、牛島は薄水色を羽織った根性論の貫くような背中を、遠くから見ていた。




おしまい

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