「必殺スワントルネード③」
岩ちゃん女体化の及岩話過去編、3話目です。
一旦上げてからラストを少しだけ改変しました。
過去話はこれでおしまいとします。
もうちょっと続けようかと思っていたのですが、そっちは高3の牛岩になるので、別タイトルを考えよう・・・スワンだからみにくいあひるのこ的な意味で過去話にしたけど、白鳥ともかけられるなーと思っていっしょくたにしようと思ったけど、なんか、ちゃんと考えよう。
それにつけても、あの60話の名シーン名台詞をにょたパロに用いてすみませんでした・・・!
岩ちゃん女体化の及岩話過去編、3話目です。
一旦上げてからラストを少しだけ改変しました。
過去話はこれでおしまいとします。
もうちょっと続けようかと思っていたのですが、そっちは高3の牛岩になるので、別タイトルを考えよう・・・スワンだからみにくいあひるのこ的な意味で過去話にしたけど、白鳥ともかけられるなーと思っていっしょくたにしようと思ったけど、なんか、ちゃんと考えよう。
それにつけても、あの60話の名シーン名台詞をにょたパロに用いてすみませんでした・・・!
必殺スワントルネード③
牛島若利には今のところ一度も勝てていない。怪童なのだという。てっぺんの椅子には常にあいつが座っていた。世代の呪いを背負ったような男だ。叩いても叩いても折れない。それでいて、付け入る隙は見えているのだった。戦うすべはあるのだ。それを操れるのは多分牛島の敵の中では、俺くらいのものなんじゃないかと思う。
流れを支配する。間隙を撃つ。削り取るように溺死させてゆくのだ。連射可能な大砲の腕に、ナイフで勝機を掴むような氷上の戦。気が付けば、削り取られていたのはこちらの方だった。もう、腕が上がらない。そんな悪夢をここ最近はよく見る。
悪夢だと思った。
悪夢だと思った。
膝を掴む手が震えた。
ボールの音が遠のいていく。もう俺を呼ぶ声もしない。
試合から降ろされたのだった。
才能って何だ。
俺が積み重ねてしがみついてきたものは何だった。
牛島がてっぺんの化物なら、影山飛雄は死神だ。俺から何もかも奪い取ろうっていうのか。冗談じゃないよ、まだ、しにたくない、みっともなくたって、まだしがみつくんだよ。俺にはこれしかないんだよ。こっちにくるな。
後輩に殴りかかった手を、掴んで止めてくれたのは岩ちゃんだった。
ボールを抱えた飛雄が呆然と立ち尽くしている。現実味のない風景だった。
「落ち着けこのボゲ!!!」
ぶん、と視界が一度ブレてから、現実が帰ってくる。夜の体育館だ。一人で練習をしていたら、打っても打っても決まらないのだ。打っても打っても決まらないのだ。飛雄を叩こうとした。
「……ごめん」
血の気が引いた。
人に手など上げようとしたのは、初めてだった。
岩ちゃんが何事か言って、飛雄を帰らせた。あまり頭に入ってこない。なんで岩ちゃんがいるんだろうか。
不調は深刻だった。自分でも理由のわからないスランプは泥沼のように足を引っ張って、コートの中は悪夢みたいだった。流れも間隙も見えぬ。
俺は弱かった。
負けたのは自分にだ。
交代で飛雄が入っていったのが、更にこたえた。
天賦の才だけで飽き足らず、俺の中身全部吸い取ろうとしている子供だ。死神のような。
ちがう。
俺だ。
全部俺のせいだ。
俺の努力が足りない。気持ちが弱い。体はいう事を聞かない。限界が見えている。俺の限界なんかもうそこに見えているんだ。
「聞け」
岩ちゃんが、俺の頬を捻り上げた。
「今日の交代はおめーの頭冷やすためだろうが。ちょっと余裕持て」
「今の俺じゃ白鳥沢に勝てないのに、余裕なんかあるわけない」
「あ?」
岩ちゃんの眉間に、びしりと皺が寄った。
「俺はウシワカヘコまして全国行くんだ。だっつーのにどう?今俺どうよ。後輩には取って代わられて、でもこんなとこで終わるわけにいかないんだよ。俺ならもっとできるはずなんだよ。もっと強くなる。俺が全国連れてく。俺が全部勝って、俺が、俺は」
泣いてしまう。
岩ちゃんが、両手で俺の側頭部を掴んだ。
猫のような瞳が燃えている。
声が詰まったのもつかのま、岩ちゃんは大きく頭を振りかぶって、鋼のデコを俺の鼻っ柱に撃ち下ろした。
大砲が相手でもまだ、生易しいと思える鉄槌であった。
それこそ岩でも割れたかという音がした。衝撃に全神経が雷に打たれたかのように痺れ、その無痛の後に鼻血が噴き出す。激痛がやってきた。
「俺が俺がってうるせえ!!!!!」
岩ちゃんの怒声に、俺の鼓膜が縮み上がる勢いで震えまくる。
「テメエなんもわかってねーななんで今日交代させられた!!?オラ言ってみろ!!!」
「あっ、おっ、」
「声出せるあああああ!!!」
横っ面を数回張り飛ばされた。
「こっ、コンビッ、ミス連発し」
「ちげえわクソボゲダボ!!!マジメに一回死ぬかおああああん!!?」
股間を蹴り上げられた。俺は床に転がる。
「ひっ、ひっ、ひどっ」
「てめえのその俺俺だよ!!!てめえの仕事忘れてんじゃねえぞクソセッター!!試合中にスパイカーに心配されてどうする仲間が信用できなくてどうするこのヘタレ!!!床になれ!!!お前はこのまま床になれ!!!!」
怒鳴りながら岩ちゃんは体育館端へ走って行きボール籠のキャスターをごろごろごろごろいわせながらこちらへ突進してきた。
「轢かないでよ!!あぶないよ!!ちょっあぶっうばっ」
「床と同化してしまえばいいそして下から見守ってろタコ野郎!!!したらちょっとは自分のバカさ加減もわかんべや俺俺野郎オラ転がれ転がれあああ!!!」
「いああああああ!!!」
横回転の俺とそれを追い掛け回す岩ちゃんは、体育館の舞台下にぶつかって止まった。
「体中がいたいよ」
壁と籠にはさまれて身動きのとれない俺がうめく。
がしゃん、と籠を脇に除け、岩ちゃんが頭上にしゃがみこんだ。顔に影が落ちる。
「小学校の最後の試合覚えてるかよ」
「……おぼえてるよ」
「みんなで一つになったと思ったよ」
「……」
そうだったねえ。
「おまえがそうしたんだよ」
「……」
「ああいう試合がしてえだろ」
「……うん」
張り詰めると、溶け合う。誰にも等しく集中する。指先と頭が直結して途方もない快感が生まれるのだ。そうすると岩ちゃんがどこにいるのか見なくてもわかるし、ボールは吸い込まれるように動く。打点では光がまたたいた。
「バレーはコートに6人だべや」
「……うん」
「あと、おれもいる」
「…………うん」
床に手を付いて半身を起こした。鼻血でシャツの前面が赤く染まっている。転がってきた軌跡を見れば、点々と、何の惨劇があったのかという感じの血痕が道なりに残っていた。
「……ふ…ふふふ」
自分でも意味不明の笑いが、口を突いて出た。
「ふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
「…すまん、ちょっと強く頭突きすぎたか」
岩ちゃんが、こわごわと俺のおでこをさすってくる。いてーよ。でもいい気分だ。
はー、うん。なんか、なんだろな、これ。
「…俄然無敵な気分」
ああ、さっき泣いたカラスがもう笑った。いいね、じゃんじゃん切り替えていこう。みんなには謝んなくてもいいよね。挽回してオツリまであげちゃうんだからさ。飛雄ちゃんには、まあ、牛乳でもおごってあげよう…。
「岩ちゃん」
「なんだ、だいじょぶか」
「サーブレシーブ」
「やんねえよ」
「一回だけやってかえろ」
「……しょうがねえな」
愛を込めて、打つからね。
賞状と、楯をもらった。賞状には県大会の準優勝と書いてある。準が余計すぎた。楯はいい。ベストセッター賞とある。そっちを脇に抱えて、俺は市立体育館の周りを探し回っていた。
賞状と、楯をもらった。賞状には県大会の準優勝と書いてある。準が余計すぎた。楯はいい。ベストセッター賞とある。そっちを脇に抱えて、俺は市立体育館の周りを探し回っていた。
「おっ、いた、岩ちゃん」
ゴミ箱と自動販売機の隙間に挟まり、岩ちゃんがうずくまっていた。
「なに泣いてんの」
「うるせえわ泣いてねえわ」
「俺のカッコイイとこちゃんと見てくれたかな~?」
「きもい」
「ひどい」
歯を見せて笑ってしまう。見て、と楯をズイと突き出すと、ぼろぼろの顔をした岩ちゃんが顔を上げた。
「おめでとう」
「………ありがとう」
岩ちゃんは、まっすぐなだなあ。
「…ウシワカには適わなかったけど」
そう言うと、岩ちゃんは頭をぷるぷると横に振ってくれた。
間隙に、ナイフを突き通したのだ。それでも3セット目の猛攻に抗いきれなかった。
勝てたら、岩ちゃんに言いたいことがあった。ずっと喉の奥を塞いで胸を苛んでいる何かだ。
でも今は、それに代えて。
「次は高校だから。高校で、絶対ウシワカへこましたる」
岩ちゃんはぐすぐすと鼻水を啜りながら「おう」頷き、小さい握り拳で涙をぬぐった。
「岩ちゃんが泣くのは、やっぱりウシワカに負けて以来だねえ」
「うるせえって」
拳を噛む、その睫が震えている。
「岩ちゃんのこと2回も泣かしたんだから、及川さんは絶対にウシワカちゃん許さないからね」
決意を込めて言うと、なぜか睨まれた。
「馬鹿野郎」
「な、なんで!?」
「あの時も今も、泣かしてんのはてめえだ」
そう言ってぎゅうと岩ちゃんが強く目をつむると、ぽろぽろと両の目から透明の宝石のような涙の粒が落ちた。抱えた膝に、顔を埋めてしまう。
触れたすぎて疼く。痛いくらいにだ。今この子が俺のものになるのなら、何にだって魂を売る。喉が干上がる。岩ちゃん、息ができないよ。
岩ちゃん、岩ちゃん、岩ちゃん、この楯をあげよう、俺の名も誉れも、身も心も捧げる。それでもまだ足りない。捧げ足りない。
頭を撫でてみる。すぐに我慢がきかなくなって、覆い被さるように抱き締めた。
「おいかわ?」
岩ちゃんが、ごそごそと身じろいで顔を上げる。肩越しに目が合った。
岩ちゃんは、そっと頬を俺の肩にもたれかけさせてくれた。そこの生地でごしごしと涙を拭いて、赤い目が笑う。瞼を閉じる。すぐにまた、睫に涙が溜まる。肩がじんわりと暖かく塗れる。触れているところの細胞が歓喜しているのがわかる。君だ、君が、君を、君は。もう、俺の、魂だ。喘ぐしかない。
「おいかわ…」
子犬が甘えて鼻を鳴らすような、涙交じりの声で呼ぶ。
そして何かの雛のようにその身を寄せてくれる岩ちゃんは、天使のようにきれいで悪魔のようにかわいかった。
その夜見た夢は今まで見たどんな悪夢よりもひどかった。岩ちゃんが俺の膝の上に座ってくれて、おいかわ、と甘えて名前を呼んで額を胸にこすりつけてくれて、指でおでこを撫でて髪を梳いてくれて、何度も何度も。
それで俺は、岩ちゃんに何万回土下座をしても足りないくらいひどいことをし尽くして、どれだけし尽くしても足りなくて、ひいひい言いながら目が覚めた。そしてあのぬくもりと甘い匂いと猫のようなきらきらしたお目目とぽろぽろ零れていた宝石みたいな涙のあの子を探して布団を引き摺りながら部屋中を彷徨い、さらって来よう、今からあの子をさらってこよう、そう思って階段を降りている途中で我に返って、血の味がする唾を何度も飲み込みながら布団の中で悶え苦しんだ。
勝利の女神は破滅の悪魔だ。俺は何度でも君に思い知らされるんだよ、岩ちゃん。
おしまい
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