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2014/04/29 (Tue)
「必殺スワントルネード②」
Comments(0) | ハイキュー!!
岩ちゃん女体化の及岩過去話の2話目です。






必殺スワントルネード②







一月ほどお付き合いをした年下の女の子とお別れをした。ふられたのである。
全然一緒にいられないし、と告げられたので、次からはできるだけ女の子にも時間を割こうと反省したのだった。
その彼女いや元彼女が、屋上に岩ちゃんを呼び出したらしいと部活の友達から教えてもらって、昼休みに俺は階段を駆け上っていた。肩をぜいぜい言わせながら、屋上の扉に手を掛ける。後ろからは男女数名の部活仲間が、心配して追い付いてきた。ああ、開けるのが恐いよう。
音を立てないよう、数センチ、隙間を開けて覗き込むと、ちょうど一昨日までは俺の彼女だった女の子が岩ちゃんに向かって勢い良く頭を下げたところだった。
「及川先輩と付き合ってあげて下さい!」
「断るわぁ!!!」
岩ちゃんは虎のような大音量で即断した。
「どうしてですか!?あの人ダメだと思うんです岩泉先輩にお願いしないとほんっとダメですアレはダメ」
「何なんだテメーらは!?そろいもそろって!!あたしの意思とかあるだろうが!!なにがダメなんだよ!?」
「だって3回に1回は『岩ちゃん』て呼び間違えるんですよ私の名前を!先生のことお母さんて呼ぶアレが3階に1回ですよ病んでますよ!!」
「しょうがねえだろ付き合いだけが長ぇんだから!耐えろよ!耐えてくださいよ長期戦で!!」
「耐えられませんて傷付くとかイタイとかを通り越して1ヶ月で何に耐えられなくなったかってなんかもう、不憫なんですよ!不憫なんですよ!!!」

俺はそっと扉を閉めた。
振り返る。
部活の仲間たちは、静かに床や壁に視線を逸らして誰も俺と目を合わせてくれようとしない。
「飯…とか…」
「…途中…だった、な…」
「あっ、私たち、昼練、しないと」
「あっ、そうそう」
「い、行こうぜ」
「お、俺を一人にしないでえー!!!」

その勢いで急遽体育館にて催した男女混合無差別マッチにおいて、俺はいまだかつてなくサーブを外しまくり戦犯となった。














桜の季節が巡り、俺や岩ちゃんは中学三年生になった。ということは、一年生がやってくる。試練の季節だ。中学校の上下関係を、この春のうちに叩き込まれちゃうんだよ。
というわけで、初めてのおつかいよろしく、おどおどきょろきょろしながら女子バレー部がミーティングしている教室へ向かう一年生3人を、俺達は尾行していた。デキる奴から課される、伝統的かつ理不尽なゲームの終始を、三年数名で見守っているのだ。
教室をいきなり開けようとする影山を押しとどめ、ノックする金田一と国見。うんうん。
「すみませえん」
「おじゃましまあす」
あら、と中にいた女バレの数名が、気がついて招き入れてくれたようだ。一年らが中に入って行って、扉が閉まる。俺らはそそそそと近寄って行って、扉に横顔をはりつけて耳を澄ませた。やや遠めいて、会話が聞こえてくる。
『あの、バツゲームで、聞いて来いって言われたんですけど』
『あのバカども、一年に何やらせてんだ』
岩ちゃんの声もする。
『岩泉先輩の好みのタイプって、どんなんですか?』
『こ……』
絶句の気配だ。続いて他の女子の笑い声や歓声が聞こえる。
『このみ…このみのタイプ…』
岩ちゃんが煩悶している声だ。HPがゴリゴリ削られているのが言い方の苦しさでよくわかる。
『やっぱりバレーの上手な人ですか?』
影山の声がした。これはなかなかナイストスなんじゃないか?
『あ、そうだな』
岩ちゃんが乗っかった。影山くん。飛雄ちゃん。えらい。
『え、じゃあ、やっぱり』
『それって及川先輩じゃないですかー』
わあ、と黄色い声が姦しくなる。
『な…ちが、ちがう!アイツより強いやつゴロゴロいるだろうが…う、ウシワカとか』
『でっかく出たな』
『そんくらいじゃない?』
『じゃー牛島が好みってことになるよ岩泉』
岩ちゃんは、いよいよ悶え苦しみはじめた。
『うおおお、やだあ、アイツは敵だもんウシワカ嫌いだもんうおおお』
…岩ちゃん、君はどこまで不器用なんだ。俺の両隣では男子がそれぞれ、目頭に手を当てたり、俺から目を背けて肩を震わせたりしているよ。
『う、ウシワカに勝つくらいバレー強い奴!』
『え~関東以西?』
『それにしても絞られてくるよその条件じゃ。あ、まって中体のトーナメント持ってくる』
『やめろおもうやめてくれええ』
金田一と国見の両名が、なんだかすみません、とおずおず頭を下げる気配と声がした。
『なんで、及川先輩、アウトなんですか?あんなにかっこいいのに』
とは、一年生の声だろう。そして、なんなんだ、この教室内に満ちていく失笑の空気は。
『優しいし~、さわやかだし~、バレーしてる時すごい男らしいじゃないですか~』
きゃっきゃと、まだ幼さを残す複数の声がはしゃぐ。ありがとね。
『あー試合中は確かにかっこいいねー』
『まーそうだねえ』
『どうなの岩泉』
『普段が普段だからプラマイマイナスだ』
…ほほおーへえ~ふうーん。バレーしてる時かっこいいのは認めちゃうんだね。はあー。
初めて聞いたよプラマイマイナスて。
『どうしたら、マイナスがプラスになるんですか?』
国見の声だ。ものすごい予想だにしなかったピンポイントの角度から、よくぞ聞いたものだよ国見ちゃん。
『それはやっぱりウシワカに勝ったらじゃね』
岩ちゃんの声。
教室が、しぃんとなる。
『え』
岩ちゃんが、ビビっている。
『え、なに。なんで、みんな黙るの』
『…いや、ううん』
『べ、べつに。なんか、たいへんな事を聞いたような気がしただけ』
『えっと、ありがとうございました』
金田一の声が礼を述べ、一年生がまたぞろ頭を下げたりごそごそ出てこようとしたりする気配がしたため、俺たちは素早くその場を離脱。
そそくさと盗人みたいな走り方をしながら、思う。
ようし、夏だ。夏だな。
両側から、頭やら背中やらをぽんぽんと叩かれた。











「ガス抜きは大事でしょーホラ気分転換ね、俺?こないだは彼女と映画、普段あんま構ってあげらんないからさあ」
彼女と映画とか大人ですー!と尊敬の眼差しを向けてくれる金田一はかわいい。
へえー。とおざなりな相槌の国見ちゃんは、もうちょっと外面を身に着けたほうがいいと先輩は思う。
「サーブ教えてください」
「お前は問題外だなトビオちゃんよ」
「どうしてですか!」
「金田一をごらん!」
「彼女と一緒だとどんな映画見るんですか?いいなあ~さすが及川さんだなあ」
「あー無垢な瞳!素直だねえ金田一はよしよしよし」
「あっ穢されてる」
「国見ちゃん!?」
体育館の入り口に腰掛け、ああだこうだと何か口論している一年の間に割り込んで、雑談に混ぜてもらっているのだ。自分で言ってしまうが及川さんはわりと、気の置けない部類の先輩だと思う。
「しかし及川さんモテますよねえ」
この台詞を、羨ましそうにではなく、なんだか不思議そうに言ってのける国見ちゃんは色々将来が恐ろしい子だ。
「イエス!俺はモテるよ!」
「サーブ教えてください」
「飛雄、座りなさい。今はお話の時間です」
「映画見ながら彼女とどんな話するんですか!?」
憧れの世界に頬を染めながら、金田一。つい数ヶ月前まで小学生だった分には、誰しもこのくらいの可愛げがあってしかるべきだと思うんだけど。
「もしもさ~、俺が無実の罪でつかまっても、信じて待っててくれる?うんまってる!とか言ってくれてさ~」
まあそういう映画だったのだ。
きゃー!と金田一は歓声をあげ、国見ちゃんは嘔吐をこらえるように口を押さえて俺から目を逸らし、
「もしも俺は、自分が無実の罪でつかまったら、自力で脱獄します」
「飛雄ちゃん。そういう話じゃない」
「お、俺だって!自力でなんとかするけどな!?」
「のるな金田一」
「俺は刑務所内で一定の地位を築き刑期の終わりを待ちます」
「堅実か国見ちゃん」
そうかそうか…なんだろうねこの脱線感。俺の実りある青春を褒め称えろよ坊主どもが。
「じゃあ及川さんがもし無実の罪で投獄されちゃったら、面倒みてね後輩たち」
甘えてみると、すごく嫌な顔をされた。一様にだ。
「俺は自分の脱獄で手一杯なので」
「俺も…」
「俺も…」
お、おまえたち……!
絶望と孤独に打ちひしがれる俺の耳に、馴染み深いドスの効いた声が突き刺さる。
「何さぼってんだ男子ども」
「岩ちゃあん!?」
顔を上げれば、両手にぶら下げたバケツに鎌だの軍手だの刈りたての草だの一杯にした岩ちゃんが、閻魔さまのような顔で外からこちらを睨んでいた。体育館周りの草むしりをしてくれていたらしい。すまない。
「おつかれさァァす!!」
「さァす!!」
「すみませんス!!!」
キャラ違いの濃い一年坊主が3人揃って、勢いよく立ち上がる。シャキンと音がしそうな姿勢。何を躾けられているんだいおまえら。
「いんだよ別にお前らは。休憩中だろ、ちゃんと水分取ってるか」
「あざァァァす!!!」
「おつかれェェェッスああ!!!」
「いんだよ別にこれは。当番制なんだから」
「岩ちゃーん、後輩にあまーい」
口を尖らせながら抗議すると、ざく、ざく、と土を踏む音を立てて、岩ちゃんがこちらへ近付いてきた。襲われるかもしれない。
案の定、脳天に拳を落とされた。
「主将さんよ。お前は他にやることあんだろ」
「ぶええ、一年とコミュニケートするのも大事なお仕事で」
「わけわかんねえ自慢話ぶってただけだろうが」
「き、聞いてたの!?」
思わず慌て、岩ちゃんの目がすっと細くなったのを見てから失言に気がついて、後の祭り。
「やっぱりか」
岩ちゃんはどうしてそう、カマをかけるのが上手なの。あばば。話を逸らしちゃえ!
「あ、そ、そうだ。岩ちゃん、あのねえ、もしもの話だよ?」
「あんだよ」
「もしも俺が無実の罪で捕まっちゃったら、岩ちゃんは俺のこと信じて待っててくれる?」
あん?と岩ちゃんは、両手を組み合わせて超かわいく上目遣いに見上げる俺に対し、前科100犯の重罪人を前にした閻魔様のごとく凄んだ。
「映画の話です」
「映画の」
と、国見金田一がちょろちょろ言い添えるが、岩ちゃんはよくわからなさそうに怒った顔のまま首を傾げる。こわい。
「そんな馬鹿は牢を破ってでも殴りにいく。顔面と腹に100発ずつだ」
そう言い捨てて、岩ちゃんはきびすを返した。ざくざくと去っていく。
「………愛されてるってことだよね、俺?」
後輩に意見を求めてみるが、
「…か、かっこいい…」
「お、男っスね。あれが男っスね」
「…つ、ついてく…」
後輩たちよ。おまえらの主将はこっちだよ。

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