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2010/03/29 (Mon)
「●でけた・・・」
Comments(2) | TrackBack() | ES21:双子

空いた時間とか「今からちょっとだけ阿雲の時間さ」と決めた時間に、ちょこちょこ携帯で打ったりしてた阿雲SSです。
阿雲・・・魔物だなこの双子。








帰宅




帰宅という概念が阿含にはない。いつしか渡り鳥の風来坊が気質になった。自宅もあれば両親も健在で、あまつさえ学生の身分であるにかかわらずだ。だから帰って来いと言われても、イエスノー以前にホワイである。なんとなく首が傾ぐ。
しかし阿含にも、漠然とした定住のイメージはあった。双子の兄である。
見た目の造りは同じなくせ、着飾るを知らぬがために、目頭が熱くなるほど所帯染みて野良着臭い双生の兄である。兄におかえりと言われると、ただいまが苦なく出る。忌々しくもあり不思議でもある。
今は都会も大喧騒の地下二階だ。片手片手に女と酒を抱いて阿含は若さが腐敗していく煙の匂いを満喫していた。

**********


流行の洋楽がいきなりサビから唸り始めて着信を告げる。また兄であろう。一昨日から今日まで数件、着信と折り返しの電話を求める留守電が入っていた。メールも一件だけ来た。とにかく連絡しろとの文面の裏に怒りが透けていた。
坊主頭のてっぺんまで赤くなる兄の説教面を思い出しながら携帯を拾う。
一休、と文字が煌々。ついでに時刻を確認する。22時半。
阿含は携帯を投げ捨てた。
い―の?と脇で起き上がる女を跨ぎ、いーのと返しながらバスルーム。
熱い湯を蛇口全開で浴びまくる。よりによって股間を洗ってる時に女が擦りガラスを叩いてきた。半透明の扉越しに声がかかる。
「電話、なんか言ってるわよ」
「あ゛ー?」
「どっかぶつかって繋がっちゃったみたい。男の子がなんか一生懸命喋ってるんだけど」
どうする?出る?切っていい?
勝手に電話に出て阿含なら今シャワーよとか言わないあたりいい女だね。
股間の泡を流して、阿含は擦りガラスのバスドアを少し空けた。隙間から鼻先を出して、
「オレなら死んだっつっとけ」
閉める。
下着姿にシャツを羽織った綺麗な女は「えー」と抗議の声を上げ、しかしすたすたと遠ざかっていった。面倒くさくなくていい。
明けて翌日、阿含は女連れで街へ出た。ひたすらぶらぶらする。携帯の電源は昨夜から切っていた。お山の上にある浮世離れした禁欲世界から、煩わしい連絡がないとも限らない、いや絶対ある。いずれ気が向いて電源を入れたらば、兄を含めて何件かの受信通知が光ることだろう。

20と数時間後。
阿含は違う女の横で目覚めた。できすぎているようだが2月に一度くらいこういう事もある。
時間を見ようと思って床からジーパンを手繰り寄せる。尻のポケットからストラップなしの機体を掴んで引き摺り出し、なんで電源切れてんだ?ああそうか、思い出して通話ボタンを長押し。ややあって電源が入った。
メールが数件入ってる。全て兄からだ。
ひとまず最新のやつを見る。
『24日の9時までに連絡がなければ警察に連絡する。』
メールを閉じた。携帯に表示されるデジタルの時刻を見る。4月24日8時48分。
「・・・・・・」
猶予は12分。
とりあえず兄からのメール全てに目を通す。
『生きてるか』
『生きてるなら返信しろ』
『どこにいる』
『だいじょうぶか』
なんだかもう心が痛いっていうか。最後のやつ漢字変換できてねえ。
51分、阿含は発信した。
兄の第一声。
「生きてるか」
まったく落ち着いた声だった。
「オレが死ぬわけねえだろ」
『死なないわけないだろ、お前だって一応人間なんだぞ』
「一応て。あのなー、やめろよ警察とか。バカじゃねえの」
『何ともないのか?』
「ねーよ。なんで警察よ」
『・・・・・・くそ、何だったんだあの女・・・』
「おんなあ゛?」
『一昨日の夜、一休からお前の携帯に連絡入れてもらったんだが、そしたら変な女が出たそうで、お前は死んだって言ってすぐ切られたって』
やっぱりと阿含は思った。あれがこうなっちまったかい。
「・・・そん時つるんでた女だよ。イタズラだ。ンなモン」
『たちが悪い!』
兄は真面目に怒っているようだ。
『お前も何日もフラフラするな。あんまり心配させないでくれ』
説教っぽい口調で優しい事を言うのを聞いて、魔が差す。
「心配ねぇ。俺なんか消えればいいと思ってるくせになあぁ?」
嘲笑混じりに言ってやる。
電話の向こうで兄は、
『・・・ふふ』
笑いやがった。どういう事だ。
『俺もそう思ってた。しかし一昨日の晩から何を食っても味がわからん』
「・・・・・・」
『阿含、そろそろ帰ってこい』
語尾がいきなり鼻声になったので立ち上がる。どうしたの?と驚いて女が目を覚ましたようだ。ジーパンに、中に脱いだ形のまま待っていたボクサーパンツごと足突っ込んで引き上げる。Tシャツを1秒で装着したらペラペラのジャケットは肩に引っかければいい。
「雲子ちゃんよう。お前今部屋?」
『そうだけど』
「しばらく外出んなよ」
『なぜ』
「てめえのツラでべそかいてうろうろされちゃ俺までナメられんだろが」
幼い頃からよく兄を泣かせていた阿含には、兄の泣き顔は容易に想像できる。
彫りが深く、鋭利な印象を受ける輪郭や鼻筋の、どちらかと言えば色白なのが、全体的にピンクになって目がうるうるして、口と鼻を片手で覆ってなんだかものすごく耐えている。光景。
『そうか。ぐすっ』
兄は簡単に納得して、ついでに洟を啜った。
兄の忌々しいところは、時たま頬擦りしたくなるくらい可愛いところだ。
どこ行くの?と縋る言葉の、未だベッドの中で半裸の女には答えないで、阿含は携帯を耳にあてたまま靴をつっかけ外へ出た。
マンションの廊下は朝一番の陽光に照り輝いている。
「雲水、今一番食いたいモン何」
突如の問いに、兄は少し考えたようだった。僅かの沈黙の後に返答がある。
『鮭の握り飯』
「・・・・・・」
おにぎりでも、おむすびでもなくて「握り飯」。
兄はたまに阿含の思考の斜め上を行く。
「・・・侘しい好みだな」
『うるさい』
「買ってってやらあ」
『ほんとか。すまんな。でもそれより、早くお前の顔が見たい』
エレベーターの昇降口で阿含は立ち止まり、携帯を耳から離すや、その通話口に唇を強く押し当てた。くるしかった。
早く帰ってこい阿含、だからって急ぐな走るなよ車には気をつけるんだぞ。兄が向こうで呼んでいる。
エレベーターがきた。スーパーの袋から長葱をはみ出させたおばちゃんがエレベーターから降りざま、携帯に口づけているチャラッチャラの男子高生をギョっとした面持ちで、見たり見なかった振りをしたりしながら擦れ違ってゆく。
帰る。ただいまでおかえり。信号待ちが長くかかりそうな交差点でもあれば、コンビニに寄れるだろう。あるだけ買ってバラ撒いてやればきっと兄は驚く、そして笑う。微笑でも苦笑でもいい。
頬擦りで済むだろうか。


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1. posted by さんさしおん  2010/03/29 21:15
死んだ。萌え死んだ。今はそれしか言えません。
2. posted by マナコ  2010/03/29 22:53
あありがととおおおおおー!!!ありがとおー!!!
さんさしおんさんのおかげで阿雲がますます止まらんよ・・・

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