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2025/01/10 (Fri)
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2011/05/31 (Tue)
「21歳」
Comments(0) | ES21:双子



金剛兄弟お誕生日ですね、めでたい!
漫画とか描きたかったのですが、うまくまとまんなかった・・・いつか描き切りたい!
あとお兄ちゃんを縛る話とかすごいもやもやしてたんですけど誕生日に縛られるってそれ・・・でも・・・私の頭の中では幸せな話なんですわっしょいわっしょい!

通販にお申し込み下さった方、ありがとうございました!今日までにメール・入金いただいた方には、返信・発送しておりますので、お届けまで少々お待ち下さい~。

続きに、金剛☆祭で配布したペーパー小説です。
双子愛が相思相愛なのが書きたかったんだー!







 












[Help me,AGONNNNNN!!]








背に負った兄の体が熱い。発熱しているのかもしれない。
熱い飛沫が数滴頬に飛んだ。兄が涙をこぼしている。酷く傷付けてしまった。
「あ゛ー」
傷口に障らない言葉を探す。
「巻き添え食わした。悪ィ」
阿含には敵が多い。ひと月あたりにつき両手両足でも数えきれぬ恨みつらみを一見無節操に買いまくっている。対策はしているのだ。戦意が再燃しない程度、かつ、息の根を止めぬ程度に半殺し。一人につき骨なら3本以上9本以下が本格的な落し前のセオリーだ。しかしどうやら、手負いの獣を甘く見ていた。
身内すなわち兄が襲われた。半殺しの傷だらけだ。駆けつけた時にはもう、数人に囲まれた兄の顔は、血まみれのじゃが芋みたいになっていた。
「…これからは、もっと気ィつけら。でも万一がねえって約束はできねーからよ。逃げ足鍛えろよ」
兄は黙って泣いている。
腫れあがった兄の顔が、背後から阿含の肩口に押し当てられた。発熱している。じわりと飛沫が滲む。口を開く気配がして、平常と変わらぬ地に着いた低めの声が、耳のすぐそばで囁いた。
「阿含。助けになんか、来るな」
「はは、」
阿含は鼻で笑った。
「俺が行かなかったらお前、死んじゃうぜ」
「お前に助けられるくらいなら、死んだほうがましだ」
雲水は阿含の背に顔を伏せて泣いた。阿含は黙って帰路を辿りゆく。道は暗い。風は冷たい。5月の深夜である。街灯もない。星が降っていた。













『阿含、助けてくれ』
「あ゛?」
阿含は、口に運びかけていた缶コーヒーをシンク脇に戻した。
「んだって?」
携帯電話向こうの兄は、かなり切羽詰まった態で声を潜めている。尋常の様子ではない。大まかに事情を聞くや、阿含はベッドに脱ぎ散らかしたジーンズの尻にから財布を掴み、施錠もしないで飛び出した。夜風が肌に冷たい。
「今いる場所は?どこにいんの」
『トイレ』
「そうじゃねえ…」
『う、うん。』
口籠る兄。
「ラブホか?シティホ?」
『え?ら、ラブホかな…』
「ホテルの名前言え。名前わかんなかったら特徴を言え」
どうやら素面ではないらしい兄は、しかし施設名と立地に外観を即答した。
「30分持ちこたえろ」
『わかった…ありがとう』
安堵の溜息が震えている。大丈夫かこいつマジで。
通りすがったコンビニの駐車場に、中型のバイクが停まっている。
「あるじゃーん」
一瞬にして頭に血が上ってから降り切らぬままに有酸素運動をしてしまい、完全にハイに飛んでいる阿含だ。
鋭い口笛を吹いてから、バイクが倒れない程度にチャンバー部分を蹴たぐった。
一回二回三回。痛ましげな音が夜空に響く。コンビニから男が飛び出してきた。何やってんだてめえるおおお、と阿含の胸倉を掴みに飛んできた腕を避けて足を踏む。
「いっでっえ」
「鍵貸して下さーい」
「あ、あしっ折れっ」
「なあ鍵」
「ふざけ」
「ふざけてねえ」
こめかみの血管がびくびく言う不快さに耐えながら10秒ほど見つめあったのち、鍵が出た。手間取らせやがって。舌打ちしながら跨って、一顧もせずに阿含は旧道の闇へ消えた。







他校の友達と飲みに出た帰り、繁華街の裏通りで車道に蹲っている女性がいたのだ。
深夜である。夜間バスの停留所を探しながら歩いていた雲水は、足を止めて声をかけた。
「どうしました」
急に気分が悪くなって、と訴える女性は泣き濡れている。腰をかがめて顔を窺うと、着衣が乱れて下着の紐が肩から覗いていた。一番嫌なタイプの揉め事の匂いがただよう。
「とりあえず、車が危ない」
と肩を貸して歩道まで引き摺り、救急車と言いかけたところで、潰れた居酒屋の入り口を塞ぐ形で停車していた乗用車から、男が3人飛び降りてきた。
どしたあっ、と叫んだ男が、病態の女を雲水から引き剥がす。
ここにひっぱってこられたの、と女が桃色の爪で指差した上には如何わしい看板が掲げられていた。
オレの女に何しやがる、とキレられて誤解だ、と一言でも弁解してしまったのが間違いで、とにかく逃げればよかったのだ。ここからの流れがキモだとばかり、なんだこのなんだこのとテンションだだあがりの男3人にそのままホテルに連れ込まれ、ベッドに突き飛ばされた後は、
「わかってんだろな」
全然わからない。
けっこう酔ってるんだよ俺は。
免許証出せやるおおおおお、と両側から耳の近くで喚かれて、雲水は項垂れた。






「バカじゃねえの、てめえ」
『すまん』
容赦のない弟の叱咤が、今の雲水の耳には心地よい。
「プロっぽいなあ、しゃーねー」
『もっと金持ってそうな人を狙えばいいのに』
「金ってな借りれんだよ」
『…恐ろしいな』
兄の声には元気が無かった。数分前の会話を思い出して、阿含は赤信号を突き抜けた。雲水は阿含の双子の兄だった。生まれる前から一緒のところにいた。はっきりとした自覚はなかったが、とても大切なのだとちょくちょく思い知る。









「疲れた」
憔悴しきった横顔で、雲水は蓮華で掬ったスープを飲んだ。
「これから気ィつけろよ」
「うん。面倒をかけた」
「ビール頼んでい?」
「お前、バイクだろ」
「俺のじゃねえ。そのへんに置いて帰る」
「……何でも頼んでくれ」
肉と脂とにんにくの、暖かい匂いが店内に充満している。阿含に引っ張って来られたラーメン屋は、ちょっと高級げで美味だった。
「飲む?」
「いい、や、飲もうかな」
「迎え酒」
口の端を釣り上げて犬歯を見せながら、阿含がグラスに瓶を傾ける。金色の泡が立つ。空はまだ暗いが、時刻的には早朝だった。風俗街なので、飲食店だの花屋だの銭湯だのの営業時間もちょっと変なのだ。仕事帰りのホストが一人、店の隅で日経新聞を読みながらモヤシと焼豚を食っている。
「酔ってたから狙われたのかな…」
「何が悪いかっつったら運じゃね?アレはねーよ、もはや美人局じゃねーよ」
「珍しいことだよな?」
「んーでも、引ったくりとか出会い系のカツアゲとかはめちゃくちゃあるから、夜はこのへんあんまし歩かねえ方がいい」
「…日本なのに」
片手で目を覆い、歎息する雲水。焼き餃子と水餃子とレバニラ炒めが、カウンターの向こうから現れた。
「つーかさ」
「ん?」
「ちょっと聞きたいんだけど」
「何だ」
「その女とはさあ、マジで何もしなかったん?」
雲水は軽く噎せた。ちょっとむきになって否定する。
「何もしていない。あっという間に部屋に連れ込まれたんだぞ俺は」
「あ゛ー」
阿含はとても不景気な顔をした。背中を丸めて丼の中の麺をかきまぜる。
「そりゃ完璧にたかられ損だわな…」
「だいたい、昨日今日会ったばかりの人と何かができるか」
「できるよ。やれよ」
「俺はしない」
「彼女作んねーの、雲水ー」
「作ろうとは思わない」
雲水は取り皿を二枚用意して、醤油と酢とラー油を等分づつ注いだ。
「作ろうとは思わないけど、できたらできたで、それでいい」
「なんだその上から目線」
餃子を三つ一度に、兄用意のタレ皿に突っ込む阿含。
「そう言うお前は彼女とかどうなんだ」
「彼女はねーよ。俺にとって女は付き合うモンじゃねーよ、遊ぶモンなんだよ」
「…相変わらず最低だ…」
「そういう口の利き方する?今日のお前が?今日の俺に?」
雲水は片手を挙げた。
「すみません」
はいよっ、とカウンターの奥から白い調理服のおやじが真顔で振り返る。
「ビールもう二本」
「はいよっ」
「ゴラ目を見て謝れよ」
雲水は阿含を横目で見た。眉間に皺を止せながら目を閉じ、深く頭を下げる。
「すみませんでした」
「よろしい」
「飲んで下さい」
「よし注げ」
今日はどこをどう切っても、阿含が圧倒的に優位である。
「ていうかまずやってみねーと、付き合うとこまで行かなくね?」
「なんだそれは。逆じゃないのか」
「カテーよ雲子」
「そうだ、硬いんだ俺は」
ふん、などと鼻息を荒くしながら雲水も餃子を狩りに行く。弟と同様の3個食いである。
「…俺が、甥とか姪を抱ける日は来んのかなあ」
「…抱きたいのか?」
雲水は驚いて弟を見た。
「んー?わかんねーけど」
「ふうん…」
しばし間が空き、二人は和製中華を堪能する。汁物も焼き物も、良質な動物性の脂にとろとろとまみれており、まことにおいしくて食欲が尽きない。
やがて、
「…そうか…」
暗い声音で雲水が言った。
「俺が結婚したら、相手はお前の姉になるんだよな。子供ができたらお前をおじさんと呼ぶのか」
「今気付いたのかよ」
「薄々気付いてはいたけど…」
「薄々かよ」
「なんか、うわあって感じだな…」
このハゲは、失礼な事を言っているのではないだろうか。
「俺だってガキができたら、テメーがおじさん呼ばれんだぞ」
「…その場合は、俺がおじさんと呼ばれることよりも、お前がお父さんと呼ばれる事の方に衝撃を覚える」
「なんで」
「何故だかわからんが」
雲水はビールを飲んだ。
「想像がつかないからかなあ」
生真面目にコースターを探して、紙製のそれの上に置く。
「想像したくないからかなあ」
じ、と弟の顔を見た。
「何だ」
問えば、目を逸らす。
「いや、なんとなく、お前は、俺に彼女ができたら嫌じゃないか?」
気持ち悪い事を言い出した。
「…なんで」
「なんとなく、同い年だからか」
「…おもしろくは…ねえかなあ」
「俺は、お前に彼女ができたら、嫌だな」
ふうん、と気の無い相槌を打つより他にない。言葉が見つからない。鼻の奥がツンとして痛む。噛んでいるものの味がわからなくなった。一秒だけ確かに時間は止まったと思う。
「だって、彼女とか子供ができたら、今日みたいに俺が呼んでも、助けに来てくれなくなるだろう」
「行くよ」
箸の先でラー油の赤をつつきながら阿含は言う。
「世界の果てからでも助けに行くよ」








いつの間にか、兄の両腕が首に回っていた。しがみついてしばらく嗚咽が止まらない様子だったのが、いつの間にか静かだ。交差した右手が左手を掴んでいる。落っことす心配は万に一つもない。
兄の呼吸が、背から直接伝わる。震えも熱も哀しみも、静かに背中から沁みてくる。
密かな鼓動で、眠ってはいない。おそらく目すら閉じていない。洗われて澄んだ瞳をしていよう。心がうつろにならなければ見えないものがある。
口を開かず、心で語りかける言葉もなく、阿含が辿る帰路の道は暗い。風は冷たい。大気も眠っている。
5月の深夜である。街灯もない。音もなく揺れる影がある。白み始める気配が忍び寄ってきた。一日のうちで最も寒い瞬間だ。
道の向こうで、夜が明け始めている。

 

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