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各々の目的があって、二人は書店に入った。
入るなり二手に分かれる。
「ほな、雑誌のアメフトのとこに、半に集合な」
「はい!」
素直に先輩の言いつけに従う花梨は、とてもよい後輩だ。
「10時半・・・えーと・・・25分後ですね」
「同人誌でも何でも見てこい」
「見ませんよ!売ってませんし!」
「そうなんか?流行ってんねやろ?アレや腐女子とか歴女とか、お前アレやろ」
「ちゃいま・・・!せんけど、いやっ、もう!言わんで下さい!やっ!」
「猫か、威嚇すなや」
「ううう」
買うつもりでいた、人気BL作家の新刊が途端にものすごく買いづらい。
「ほいじゃまた」
「うう~」
それでもしっかりと購入を果たす花梨であった。
そして、約25分後のスポーツ雑誌コーナー一角にて。
「一人?」
「は?」
花梨は立ち読みしていた雑誌から目を上げて、声がかけられた方向を見た。小奇麗でちょっとニヤけた感じの男が、いつしかすぐ傍らに立っている。
「アメフトとか見るの?」
「え」
見るというか。勉強中というか。やってるというか。
手にしているのはアメリカンフットボールの国内トーナメント特集雑誌だ。
「ええっと・・・」
突如知らない人から話しかけられて、花梨は混乱した。知らない人なのだ。応答していいものかどうか。
「アメフト、おもしろいよね」
花梨は合点した。
マイナースポーツやもんなあ。
自分が好きでも周りに好きな人がおらんで、話し相手がおらんで、それで私に声かけてきはったんやわあ。あーそうよね、なんやあビックリした。
はあ、それでどうしょう。
「花梨」
「平良先輩!」
背中からかけられた自分の名を呼ぶその声を、花梨は窮地から援軍を振り仰ぐ気持ちで聞いた。へらせんぱああああい!他の人は誰でもちょっと不安な感じするけど(スミマセン)、平良先輩なら何がどうでも、とにかく何とかしてくれはるような気がしてるんです、せんぱああい。
ぐっ、と肩を抱かれた。身長差20センチ、更にラインを守る隆々とした体格との差で、抱かれるというよりくるみ込まれるような感じだ。
「待たせてゴメンな」
声が男前である。
何その声、先輩。何そのカオ、先輩。
花梨は言葉が出なかった。ぱくぱくした。連れ去られるように、その場を後にする。
「・・・・・・花梨~~」
書店を出てから平良は、抱いていた花梨の肩を、そう弟にでもするように、ばんばん叩いてから突き飛ばした。
「わかってへんかったやろ、ナンパやアレはナンパ!おもろい顔しやがっておいしいなお前はほんま。おい、大丈夫か。何かされたんか」
突き飛ばされた格好のまま、よろよろ数歩進んでからへろへろ膝を落とし、動かない花梨に平良は冷や汗を滲ませる。
「へ・・・・・・」
呻くような花梨の声には、泣き声に近い色が混じっている。
「へ、?何や?どした?」
「へらせんぱいが」
オレが?
駆け寄った平良は、抱き起そうとして、触れるのをためらう。
な、何やねん、オレが?
「平良せんぱいが、男子やあ~~」
花梨は涙目で赤面していた。
「うう、うう~~~」
「はあ・・・・・・。ご、ごめん」
とりあえずそれしか、平良には言葉がなかった。
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