「クラッシュムーンオンザディッシュ (青木村&トミ子)」
青木村が好きすぎて書いた話です・・・
好きすぎて書いてばかりだ・・・
たえられない・・・青木村が好きすぎて耐えられない。妄想しないでいることにたえられない。
トミ子がいい女すぎて耐えられない。
青木村が好きすぎて書いた話です・・・
好きすぎて書いてばかりだ・・・
たえられない・・・青木村が好きすぎて耐えられない。妄想しないでいることにたえられない。
トミ子がいい女すぎて耐えられない。
クラッシュムーンオンザディッシュ
そういえば、青木の女と飲むのは初めてだった。
目立ちたがりの癖にあがり症で、女好きの癖に度胸の無い青木の、遊びを除けば優に片手で足りてしまうこの道の遍歴を、木村は何故か完全に把握している。
遠慮の無い仲と言えば確かにそうなのだが、意識して隠しさえすれば余人に知れない、こっ恥ずかしい男の事情を、青木は木村に簡単に曝すのだ。
腐れ縁だけあって初恋から初体験までリアルタイム。捨てられて泣いて暴れるのを殴って大人しくさせた事もあるし、やに下がりきって止まらぬ惚気話に耽るのを殴って黙らせた事もある。
しかしそれでも青木の女と飲むのは初めてだった。
最初は3人で飲んでいた。
青木の部屋で木村の買わない週間雑誌をごろ読みさせてもらっていたら、日も暮れてから向こうが訪ねて来たのだ。
白い細い手から下げたビニール袋には、キリンにサッポロに氷結に、ベーコンやらトマトやら豆腐やら。
二人の、晩餐だか酒宴だかは図りかねたが、その相伴に預かるつもりなど当然無かったので、木村はさっさと消えようとした。
それを青木に引き止められたのである。
「オマエも食ってけよ」
女はちょっと目を丸くしたが、いいんじゃない、と笑った。少しだけ無理をしているようだった。
「トミ子のメシはうめーぞ」
仮にも一応、兼業とは言え、調理師である青木に言わせるのだから、女の腕は確かなのだろう。
しかし結局その腕は振るわれなかった。
とりあえず、と机にありあわせの乾物を出し、缶詰を開け、次いでビールとチューハイのプルを開けてから10分と経たぬうちに、なんだか普通に盛り上がってしまって間を逸したのである。
女が差し入れたアルコールは瞬く間に三人の胃へ落ちて消えた。
そうして何故か今、木村は青木の部屋で、青木の女と二人で飲んでいる。
変に気まずい。
恨むぞ。
と、先程まで隣にいた腐れ縁の猿顔を思い浮かべて見るが、事の起こりを思い出せば自業自得と言えなくもない。
5分程度前の事だ。冷蔵庫から最後のアルコール、麒麟端麗生350mlを二つ取り出しながら、おい木村買出し、とぞんざいに青木は命令した。
若干酔った木村は当然カチンと来、てめえで行きやがれと憎まれ口を返す。
ここはオレの家だぞバカヤロウ。
だからオレは客だろうが、もてなしやがれバカヤロウ。
てめえオレの居ない隙にトミ子に手ェ出すつもりじゃねえだろなバカヤロウ。
頼まれても出すかバカヤロウ。
ちょっと何よそれバカヤロウ。
トミ子も酔っていた。
そうして結局渋々と、家主の青木が出て行った。
襲われそうになったら声を上げろ、とトミ子に諭したつもりの青木の言葉に、トミ子よりも先に「うん!」と元気良く頷いてみたところ、大分遠慮が無くなってきたのか、女と思えぬ力で後頭部をひっぱたかれた。
青木はそそくさと出て行った。
そして今、気まずい。
「木村くんて、彼女いないの?」
「んー、特に、今のとこ」
相手が好みの女であれば、即座に友情と恋とを天秤にかけて、自分の幸せを計算してしまうシチュエイションではある。
しかし青木は逆面食い。
溺愛されているこの女は、世間の美意識におけるレベルの上辺とはおよそ、程遠かった。
加えて性格も木村の好みとは言い難い。
そもそも青木と木村は長くつるんでいながら、理想とする女はもとより、付き合い方から愛し方まで、選り好むものが大分違う。
青木はすぐ部屋に女を呼びたがるが、木村は外で会うのを好んだ。
青木は甘やかされるのが好きで、木村は甘えて欲しいタチだった。
世話を焼かれるのが青木は全く苦にならず、しかし木村は母親面をする女というのにどうしても馴染めない。
従って、青木と理想的な組み合わせと相成っているこのトミ子は、全く木村の守備範囲外と言う訳だった。
「友達紹介したげようか?」
「・・・・・・いや、いいです」
なんとなく声が小さくなるのは、既にトミ子の友達に一度失恋を経験しているからである。
この女はパっと見、張り気味のエラと小さく丸い目が魚類っぽい雰囲気を出していて、それも温暖で波も低い瀬戸内海寄りだよなあと木村は思ったりするのだが、しかし失礼ながらこうした外見でいて友達には美形が多い。
その美形の女友達に、わりと手痛い形で、ばっさりと捨てられた事がある。
いやあれは捨てられたっつーか、男として見られてなかったつーか。
最初から友達としか認識されていなかったというのは、振られるよりも尚キツい。
「・・・・・・れーコさん元気?」
「元気よお、カレシともうまくいってるみたいだし」
「そお・・・」
「そーだ、木村くんれーコと仲良かったじゃない。れーコに紹介してもらえばあ?」
「いやいい、それはいい。・・・最近遊んでないし」
最初から完全に自分の片想いだったとすれば、この女が知らなくとも無理はないが、この自分の暗い空気から察して欲しい。
木村は無神経な女も苦手だった。
誰が、死んでも貴様に手なんざ出すかよ。
「まさる程じゃないけどワリとイケてるのに、もったいなーい。彼女作んなさいよう」
「めんどくさいんだよなー、もう」
「やだ終わってる、まだ若いのに」
「あのねえ」
眉間の皺が引きつりそうなのを、木村はなんとか苦笑の形に留めて、
「いいなと思うコが居りゃ、オレだってやる気出すよ」
トミ子は面白くなさそうな顔をして、そう、と言った。
ちびりちびりと缶からビールを啜る、その半酔いの膨れっ面に、木村は鼻から溜息を吐く。
「絡むねー。そんなにオレ寂しそう?」
しばしの間をおいて、ううん、とトミ子は首を横に振った。
ごめん、とぽつりと言葉を落とされて、木村は益々居心地が悪くなる。
「あたしねー。時々木村くんが羨ましくて」
「はあ」
「ボクシングできるでしょ」
まさると一緒に。
「妬いてしまうのよ」
木村は即座に理解できてしまった。
ボクシング馬鹿。ついてけない。付き合いきれません。口説いてやってもそう言って、距離を取る女は何人もいた。しかし結局のところ彼女らは自分に呆れて離れたんじゃない。圧倒的な男の夢に適いっこないのを感じて、妬いて諦めて逃げたんだろうと。
うん、少なくとも、逃げた女の5割くらいは、そうであったように思いたい。
木村は言葉を選ぶ素振りで顎を撫ぜた。
ボクサーが見る夢ってのは、きっとリングに立つ者にしか描けやしない。
何年間、多分同じの夢を見てきた?流す涙を見守ってはやれても、拭ってやる事など思いも寄らない薄情な盟友だけれども。
「・・・トミ子さんよ、知ってるか。あいつロッカーにあんたの写真張ってあるんだぜ」
「・・・・・・ホント?」
トミ子は笑った。
やたらまぶしくて木村は、むやみにビールをあおってみた。
「おっせーよ」
腕を組み半眼で下から睨んでやると、青木はバツが悪そうに眉を下げた。
「悪ぃ、レジがやたら混んでてよ」
「馬鹿、わーってんよ」
半ダース入りのビールのパックを、両手にビニール袋でぶらさげた青木の肩へ、木村はよいしょと手を回す。
中秋の月は高い。
電線の上にちょいと腰掛けたような風情の半月を見上げ、しょうがねえな、という表情で口の端を上げた。
「何だよ、今更彼女紹介のつもりか?おい」
「いや、やっぱ1回きちっとさ。お前たあ一緒にメシぐれえってよ、思ったんだけど」
「あのー、お二人の出会いには一応、立ち会ってんだけど」
「だからよ、でもよー、何かよう」
ムキになって言葉を詰まらせる青木の頭を木村は、ハイハイとお座成りに相槌を打ちながら、肩に回した方とは反対の手で叩いた。
今更こそばゆい事してんじゃねえよ。
「ホレとっとと帰るぞ。てめえがあんまし遅ぇから、女が心配してんだよ」
「つーか何で迎えがテメーなんだよ!トミ子が来てくれりゃいいのによう」
馬ー鹿、と木村は青木の首を、腕の関節で軽く締め上げる。
「こんな暗くなってから、女一人で出せるかっての」
ほら急げよ。
急かして木村は、青木の首を閂締めの形に抱え込んだまま、早めの歩調でアパートへ歩き始めた。
引き摺られるようにしてよろよろと連行されながら、青木は面白くなさそうに目を泳がせる。
だからてめえには、彼女紹介したくねえんだよなあ。
ぽつりとこぼされた不貞腐れたような呟きに、木村は青木の心中を見通したような目でにやりと笑った。
あとがき
青木村だいすき・・・・・・!!!
ほどよくデコボコしつつも常時セットであり、
淡白な接し方の中にも長年の慣れと遠慮のなさが伺える、
脇で光るこんちくしょう二人が大好きです!
ちゃんと(?)親友でしてる二人と、
木村にヤキモチを焼くトミ子を書いてみたくて。
彼氏の親友と親友の彼女の、微妙な雰囲気が見てみたい~。
青木村だいすきだっ・・・・・・!!!!
(2005.12.26)
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