「祝福の女(間柴兄妹)」
間柴兄妹が好きで愛しくてしょうがなくて、一久美も応援したくて書いたお話です。
無料配布本に載せたりなど、あたし、いかれていた。
いいえ、いかれている。間柴兄妹にね・・・!(>ω・)バチン
間柴兄妹が好きで愛しくてしょうがなくて、一久美も応援したくて書いたお話です。
無料配布本に載せたりなど、あたし、いかれていた。
いいえ、いかれている。間柴兄妹にね・・・!(>ω・)バチン
祝福の女
恋は女を変えるという。
強くなるのか弱くなるのか。最近の妹の様子を見ていればなんとなく両方なのではないかと。
間柴は思って眠る妹の前髪へ、長い指で触れた。
試合が近付くにつれ体が細る。皮膚が乾いて割れた唇から血が滲む朝を迎えるものそろそろだ。
間柴は夜の住宅街を駆けていた。
走るのも叩くのも食べないのも飲まないのも辛い。体は辛い。それが嬉しい。自身の体躯が上げる悲鳴を、間柴の心は喜んで迎える。辛い分だけ強くなる。殺せる。潰せる。もっと飢えなければならない。
しかし、問題はアイツだ、と、鬼であり死神でありボクサーであり、同時に人の兄でもある間柴は考えた。
気にすんなっつうのに素知らぬ顔して一食抜きやがる。
具のねえスープにリンゴにトマト、んなもんで育ち盛りはまあ過ぎたと言え、見るからに華奢な体が、看護士なんてまっとうにハードな仕事をこなすその細い身が、何日ももつワケねえだろうがよ。
妹の心遣いが可愛くないといえば嘘になるが、自分が好きでやっていて、それで心配させている事も解っているのに、さらに減量にまで付き合わせては、胸も痛むがその10倍頭も痛い。どうもアイツは健気すぎる。
看護士になったのも、間柴から触れた事は無かったが、体調管理の難しい兄の影響を多く受けての事なのだろう。
白衣と見紛う白いスカートの裾を翻して、お兄ちゃん、と窓辺で笑うあの日の妹は、献身の喜びに満ちていた。
総合病院にお勤めが決まったよ、病棟勤務だから夜遅くなるけど心配しないでね。
誰がするかと憎まれ口を利いて、間柴は妹を見る眼を細めた。
帰ったら、食って寝てるはずだ。もう家を出てから2時間にはなる。いい夢を見ていろよ。
そう思って、間柴は不意に、唇を忌々しげに歪めて半眼となった。
あの男の夢なんざ見てんじゃねえぞ。
ちっ、と思い起こしてしまった面白くない男の顔を、痰と一緒に電柱の生え際にはき捨てて、間柴は黙々と家路を駆けた。
予想通り久美は寝ていた。
ただし自室のベッドでではなく、リビングからベランダを望む窓際で、壁にもたれて座布団を抱いてだ。
寝息は静かだった。
待ちくたびれたように、綿の薄くなった座布団を抱く肩が二の腕が、呼吸とともに僅かに上下していた。
可愛い妹さんで羨ましいなあ、と、心からのやっかみ半分でからかわれた事がある。
兄貴はあんなに怖いのに、妹はまるで天使じゃねえの。兄妹二人暮らしだなんて心配だよなあ。
以前バイトで勤めていた職場の同僚に陰口を叩かれた時は、血を見たっけな。肉やら骨やらに到達する前に止めてはやれたが。
下世話な心配は間柴にとって心底お門違いで、如何に可愛かろうと愛しかろうと、女だと思える事は無かった。
つい最近までは。
だからって、何が変わるワケでもないんだが。
お前を女の顔にしたのが、アイツだってのが気に喰わねえだけだ。
恋は女を変えるという。
まあ、強くなったもんだよ。
間柴は眠る妹の髪へ、不器用な所作で長い指を絡めてみる。
でもなあ駄目だ。
アイツだきゃやめとけ。
妹の相手は背が低くて童顔で、人当たりが良すぎるくらいに良くて誰からも好かれていいように使われて、女相手からでも可愛いなんて言われて、それでヘラヘラ笑ってうやむやにして誤魔化して。
諦めが悪くて懐に飛び込む思い切りは殺人的に良くて、何に対しても全身全霊で自分の道を曲げる事がない。
相手の男を見知る、今の職場の同僚や上司などは、いいんじゃねえのと気軽に言ってくれる。
お前と同じボクサーでチャンピオンたあ、ちょっと思えねえくらい人がデキてそうじゃねえかよ。
久美ちゃん大事にしてくれそうじゃねえか、それにほのぼのしてよ、お似合いだぜ。
ああその通りだ。
ヘラヘラしてやがるがムカつくが、本気で苛立たしいがアイツは強い。人がデキててほのぼのしてて、甘く見られても屈折しても、一途で逞しくて嘘のない男だ。
だからだ。
だから、きっとアイツは、どんなに男の風上にも置けねえような悪い男よりも、妹を泣かせる。
間柴は久美の額から指を引いた。
どうしたものかとしばし顎に手を当てて逡巡し、やがて『・・・風邪ひくだろうが』という結論に達し、健やかな寝息を立てるその横顔を柔らかく叩く。
冷えた手のひらの軽い衝撃に、久美は驚いて眼を開けた。
「あ、あれ、あ。お兄ちゃん?」
「おう。部屋で寝ろ」
「あ、うん」
久美は抱いていた座布団を膝へ降ろし、暗い室内をきょろきょろと見回した。
そして濃く長い影を自分へ落としている眼前の兄へ、どこか儚くも暖かな笑みを見せる。
「おかえり」
おう、と間柴は答えた。
アイツは妹を外へ誘う。
誘っておいて放って行ってしまう。
一途なままに嘘の一片も迷いも無く、自分と同じ刹那の場へ。この優しい妹から見れば、命を削るとも思える殺し合いの場所へ。
リングに祝福された人間が、果たして女を愛せるとは思えない。
少なくとも容易くは渡すものかと、胸の内で静かなる拳を握り締めた間柴は、まだ気が付いていない。彼は妹を見くびっている。
祝福された男の生かすも殺すもを握ったその拳で寝ぼけ眼をこすり、久美はふわあと小さな欠伸をした。
あとがき
「見るだけで幸せになったからであり」だなんて
距離を感じさせる告白をされてたヒロイン久美さんですが、
いつかどっかで化けてくれるんじゃないかと、
ひそかに期待しております。
しかしリングがどうの、ボクサーだから云々よりも、
一歩は完全に守られる側の人間というか
草食側の動物なので、妹さんを任せるにはやっぱり、
かなり相当、絶対的に頼りないかとは思うんですが、
い、いいじゃないか!
ブラコン久美たん万歳!
(2005)
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