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2025/01/10 (Fri)
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2010/10/13 (Wed)
「●敵に告ぐ」
Comments(0) | 一歩(宮一)
宮一←ワンポ話です。
ワンポが宮田にくってかかる展開がみぶるいするほど好きです。











  敵に告ぐ




逢瀬と言うにはあまりに健全、かつのどかな風情の二人であった。
「見て宮田くん、飛行機雲するどいねえ」
「そうだな」
しかしその状況に納得がいっているかと言えば、それは別の話であって。
「幕之内」
「宮田くん?」
宮田は起き上がり、川土手に並んで寝転んでいる一歩の頬へ手を宛がった。
周囲に人気は無い。日もそろそろ傾いて、見通しの悪い時分である。
半分身を重ねるようにして圧し掛かってきた宮田を、きょんとして見返す一歩の表情は無垢である。
「なあに?」
「この状況でおまえ、何はねえだろ」
一歩の頬が、ぱっと桃色に染まった。
「キスするの?」
「い、言うなよ・・・」
宮田は突っ伏した。一歩の肩口へ顔を埋める。ついでに野暮ったい色のトレーナーーに歯を立てた。
「やあ。くすぐったいよ」
一歩は驚き、ますます顔を火照らせて身をよじった。厚い秋服の布越しに、甘噛みの感触が肌へじわりと沁みてくる。
「い、いやー」
一歩の声に軽く泣きが入るのを心地よく聞きながら、どう言い聞かせてこの健全野外で一歩の方からのキスをもらおうか、宮田の頭は算段に励む。

それでつい、破壊獣の接近を察知し損ねた。














ばうばうばうばうばう!!と吼える白い毛むくじゃらと、宮田は既に敗北感たっぷりの気持ちで睨みあっていた。
親のカタキか前世の仇か、そんな様子で敵意剥き出しの愛犬の首に取りすがり、一歩は懸命に宥めている。
「ワンポ、ワンポ、どうしたの」
大事なご主人様が食べられちゃう!ワンポは必死であったが一歩には通じない。でも宮田にはなんとなく通じて、それで宮田は今非常に居心地が悪かった。
一歩の肩を噛み、呼吸する度一歩の臭いで肺が充たされるのに恍惚として興奮もして幸せでもどかしくて、自分の方が犬みたいなハフハフした気持ちで盛り上がり気味だった自覚はある。
バツが悪かった。
一歩が愛犬の敵意を理解できず、おろおろと取り成している様が、これまたいたたまれなさを大いに煽る。
「ワンポ、ボクと宮田くんは、そのう、仲悪くなんてないんだよ?」
言いながら一歩がワンポから離れ、宮田の腕にしがみついてきた。
「ホラね?ほら、ね」
驚いて目線を向けると、心臓に悪い至近距離に一歩の顔があった。次いで頬にえもいわれぬやわらかいかんしょくが、ふにゅんと押し当てられて去ってゆく。
「ボク、ボクは宮田くん大好きなの」
きゅ、と一歩が宮田にしがみつく、その何十倍の圧力が宮田の心臓を押し潰す。
「だから、ワンポも宮田くんと仲良くして」
ワンポは聡く理解はしたものの、納得には至らなかったようだった。
一歩のアイボリーのトレーナー、大好きな一歩の臭いや暮らす家と海の臭い、そしてもちろん自分の臭いも染み付いているはずのその肩に、縄張りを汚すかのように歯型が濡れて滲んでいる。
なんでそんなのの肩を持つのー!
吼えはしないまでも、恨みがましくワンポは唸った。
「う~ん、どうしてかなあ」
弱る一歩を見下ろす宮田の目にも、自分の歯型はよく見えた。先程頬に触れた疼くほど可愛い感触と、それに次ぐ一連の攻撃に拳が震えんばかりであったが、自己嫌悪と罪悪感と苛立ちが小さな団子になって喉の奥につかえており、素直に幸福になりきれない。
自己嫌悪は盛った自分に、罪悪感は肩の歯型に、苛立ちはいいとこ邪魔しやがってというナニばかりでなくて、なんというか嫉妬含みだ。宮田のハートは今とても忙しい。
「あのう、宮田くん」
遠慮がちに一歩が宮田から身を引く。
「ん?」
「ボク、そろそろ帰るや。ワンポ迎えにきたし、仕事の手伝いあるから」
一歩の口から別れを告げられると、なんだかとても大きな喪失感を宮田は味わう。
一歩は軽くうつむいており、前髪の向こうの表情まではよく伺えない。しかしどうやら半端なく赤面しているのは見て取れた。
「えええと、あのー」
「何だ」
「いや、そのう・・・。ボク、・・・なんだかスミマセン・・・」
「なにが」
「・・・は、恥かしいコトいっぱい言ったような」
無言で繰り出された宮田の手刀が一歩の眉間を打った。
「謝るところじゃねえよ」
なんでこいつは一々こう物事を照れ臭くしやがるんだと、歯噛みする宮田。手刀に反応したワンポが、ばうっ、と一声威嚇に吼えた。
「宮田くんが殴るところでもないでしょう、あたた」
額を押さえて弱った声を出す一歩と宮田の間に、ワンポがぐいぐいと身体をねじこんでくる。
「ああん、ワンポー」
宮田が遠くなって益々声が弱る一歩に、宮田は軽く溜息をついた。
「足りねえんだろ、あれじゃ」
「あれ?」
一歩は赤い顔をしたまま、目を丸くして宮田を見る。
「ほっぺたにキスしてちょっとしがみついたくらいじゃよ」
「え」
「お前がオレにおっかぶさるくらいでないと」
「えええええええ」
一歩は指の先まで茹で上がった。それに笑って、宮田はじゃあなと踵を返す。
宮田くん、宮田くん、あの、あの、またねー、とうろたえ慌てて語りかけてくる一歩に背を向けたまま手を上げ応えて、宮田は草を踏みゆっくりと土手を上がり家路についた。
その背後で。
宮田くんと会う時は、当分ワンポは一緒無理だねえ。
一歩が愛犬へ、火照った声で困ったようにそう語りかけているのが微かに聞こえ、
当たり前だ でもそれはどういう意味だ
宮田は一歩分だけ軽くよろけた。










宮田くんには試練が似合う

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