敗北を認める。
どう考えてもオレが不利だ、ずっとそうだ。
純粋に強さを追ってるお前とは違う。
リング上でだ、目の前にいる相手以外のツラがチラついてしょうがねえなんて経験ねえだろう。
だから突き放す。忘れられないようにする。しておいて距離を見せ付ける。
惚れろ惚れろ。オレは靡かない。
わけがわからないという顔をしながら、それでも尻尾振ってついて来る。
オレの何が好いってんだ、どう好きなんだ、どんだけ好きだ。
時に焦り時に苛立つ気持ちのままに、或る日。
怒らせてしまった。
言い過ぎた。
やりすぎた。
言い寄りすぎた、突き放しすぎた、したいようにしすぎた、相手の気持ちなんざ図ろうともしなかった。
幕之内は地面を睨んで、Tシャルの裾を掴んだ手を震わせた。
「宮田くんなんか」
言って上げられた目眩がするほど綺麗な目には、一杯に涙が溜まっていた。
いかん、マズい
まさか嫌われたら
「嫌いになれたらいいのに!」
それを捨て台詞にあいつは体を翻した。
呆然と見送った。
いや追おうとはした。
したんだが足が動かなんだ。
ようやく一歩だけ踏み出した。
あいつがさっきまでうつむいていた地面の上へ乗った瞬間臭いが来た。幕之内の涙の味のする大気が確かにそこにあって気を失いそうになった。
どう考えてもオレが不利だ。不利すぎる。なんでか敵いっこ無い気がするのだ。
ああ、
惚れたが負けとはよく言った。
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