幕之内にはオレの言うことを真に受けすぎるところがある。それが駄目ってワケじゃないが、察しろよ少しはと苛立つこともしばしばだ。
ヘンな顔をするなと言えば、傷付いた表情になって両掌で顔をこする。
近すぎだと言えば後方へ5メートルも距離を置く。
うるせえと言えば息さえ潜めて黙りこくる。
馬鹿かと、半ば怒鳴るみたいな言い様で叱り付けてしまうこともあるが、そうすると奴は泣きそうになりながらごめんなさいと頭を垂れるのだ。
オレしか見えてないって顔を外でされると抱き締めたくなるから困る。
体温が感じられるほど傍で笑顔を見せられると無理矢理に何かしたくなって参る。
あまりに手放しで好かれているような言葉を並べられると照れるし、かといってオレ以外の何かについて熱く語られても腹が立つ。
危なっかしくて見てられない挙動があまりにも多くて心配なんだよ。
察せられても困るけど、誤解されっぱなしもなんだかな。
冷たくて嫌われてると思われてないだろうな、逆なんだよ。
いいと思うよ。優しい所も涙がすぐに出るところも、正直なところも一途なところも、何事にも丁寧で、一点、すごく貪欲なところもいいと思う。どんな表情も実は好きだよ。
「宮田くん、宮田くんあのね」
「うるせえ黙れ寄るんじゃねえ 笑ってんなよ気味悪ィ」
もしかして、もしかしなくても、悪いのは、オレの口だな。
終
(2009.2.21)
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