忍者ブログ

2025/01/10 (Fri)
「[PR]」
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。



2010/10/13 (Wed)
「2.14の悲劇(宮→一+一久美?)」
Comments(0) | 一歩(宮一)


宮→一風味で一久美前提でギャグ。心広い方向け。









出す手出す手へ的確に合わせてくる宮田の拳に、前髪や耳の端が焦げるような感覚をヒヤリと味わされつつ、木村は間合いを外す足へ意識を集中させた。
スパーリングとはいえ手を抜いていては、遠慮なく硬いのをモロクソ顔面へ叩き込まれる。既に2R目でキレのいいのを腹にもらった事もあり、ただでさえ辛うじて立ててもらっている感のある年上の面子は、大分に潰れかけていた。
ただでさえ今日はなんか、ちょっとこの場には不似合いなギャラリーが。
やがて耳から脳天へ軽く抜けるようなゴングの音が空を打って、木村は上がる息をなんとか抑えつつ宮田に背を向けた。
わー、きゃー、とちょっと控えめな歓声が上がる。
ご近所の女子高生と思しき3人組が、窓からスパーリングを見学の体で覗いていた。
明らかに宮田の勇姿目当てなのだが、ボクシングジムの敷居は現役女学生の目から見れば大層高いらしく、こそこそと覗いては仲間内ではしゃぐ様がなんだか微笑ましくも可愛らしい。
完全無視を決め込んでいる宮田に代わり、グローブの右手でぐーぱーぐーぱーしながら手を振ってみる。
3人の女子高生は、曖昧に笑いながらも愛想よく手を振り返してくれた。











「木村さんいますかー」
と、木村を既に視界に捕らえ、満面笑顔で窓から身を乗り出して来たのは幕之内一歩。
「おー、何だよー」
お迎えかー?
首にかけたタオルで顎からコメカミにかけてを拭いつつ、妙に嬉しげに川原のジム内を見回している一歩へ木村は歩み寄った。
「いえ、忘れ物届けにロードがてら」
はい財布、と差し出されて木村は首すじを掻く。
「あらら、どうも。走って帰るから良かったのによ」
「でも、困ることあるかもじゃないですか」
と、一歩は少々困った顔をして目を逸らす。
照れたようにその目元へ、若干血が上っているのを見、木村はハハアと口の端を上げた。
木村の背後では、こちらと同じくスパーを終えて汗を拭いている宮田一郎。
一歩の宮田贔屓はかなりのもので、高校生の頃に出会ってから5年以上も経った現在でも、そのミーハーぶりは衰えることがない。
なのでこうして、ちょっとした用事にかこつけて一歩は、隙あらば宮田を接点を持ちたがる。見ようによっては大変ホモくさい。
宮田は宮田で、先程からこちらへは全く視線をよこさずにいるものの、さすがに先程の女子高生と同扱いにする気は無いらしく、会話へ参入する機会を伺っているかのような気配を漂わせており、なにやら面白い。
しかしなあ一歩よ。
今日は、ちょっとアレだろ、と木村は口元へこみ上げる笑いを拳で隠した。
「おい、一歩」
「は、はい?」
背後の宮田へ見蕩れきっていた一歩は慌てて木村へ向き直る。
「おまえ今日、何の日か知ってんのか?」
こういう日にお前が宮田へわざわざ会いに来るって、けっこう怪しいしネタとして面白いぞ。
しかし木村の予想に反し、一歩はこともなげに答えてみせた。
「え、バレンタインデーですよね?」
純和風なつくりの童顔をした一歩が言うと、どうにもその長ったらしい横文字は不自然だ。
「そうだぞ、さてはお前宮田に」
「そうそう、宮田くんに」
木村の言葉途中、何か思い出したように遮って、一歩はおもむろにジャージの横ポケットへ右手を突っ込み、探った。
木村は凝固した。
「オレがどうかしましたか」
のこのこと宮田がやってきた。
自分の名が出たので会話に入るにはタイミングよしと計ったのだろう。判断としては間違っていないのだが、今日この時に限っては、あとあと後悔のタネになるやもしれねえなあとボンヤリ木村は考える。
一歩はポケットから手を引き抜いた。
木村の予想に違わずその手には、春らしいコーラルピンクのリボンも華やかな、じつに愛らしい装いの箱が掴まれている。
木村の斜め後ろで宮田も凝固した。気配でわかった。
一歩は満面の笑みで差し出した。
むろん宮田へ向かってである。
「はい、宮田くん。バレンタインのチョコレート!」
差し出された薄いピンクのリボン越しに見える一歩は、ややはにかんだ表情とちょっと低めの年齢に見られがちな容姿が相まって、可愛いと言えば言えなくもなく、悪夢ですかと宮田は思った。
ああ一歩。
一歩よ。
木村は切なさとやるせなさ、そして多大な使命感に動かされるままに、携帯をカメラモードに切り替えて構えた。
数歩離れ、何とも言えない雰囲気をただよわす、その二人の光景を1枚撮影してみる。
そうして響いたシャッター音で、ようやく宮田は我に返った。盛大に顔を強張らせながら後ずさる。
「て、てめえ、何のつもりだ」
語尾が震えていますよ。
もはや子供を見守る母の気持ちで、そっと画像を保存する木村。
しかしこの宮田の問いにも、やはり事もなげに一歩は答えた。
「さっき、そこで制服着た女の子がね、3人組でね」
何が嬉しいのか、にこにこと満開の笑顔のままに一歩は続ける。
「ボクがこんなジャージで川原ジムの前走ってたから、勘違いされて呼び止められて、宮田くんに渡して下さいって頼まれたの」
えへへへぇ、と一歩は一層嬉しげに眉を下げる。
「宮田くんのジムメイトって間違えられちゃった」
そこ喜ぶポイントか。
「宮田くん、モテるんだねえ」
そこも仮にも同じ男として、喜んでいいところなのか。
宮田は無言で一歩の即頭部をはたいた。
「あうっ!?」
「い、イヤな汗かかせんじゃねえよ」
「まあまあ」
気持ちおふくろさんな風情で、木村が間に割って入った。
「良かったじゃねえか宮田。さっきの娘らだろ、多分」
「良かないですよ、食べられもしないのに」
只でさえ減量が厳しい宮田は、常からほぼ一切の嗜好品を絶っている。
「あ、そーだよな。でもびびったぜ、マジ一歩からかと思った」
と、木村からからかいの目線で見られ、えええー、と一歩は声を上げた。
「どうしてですかあ」
「どうしてもこうしても、やりそうだもんお前」
やだなあもう、と一歩は苦笑する。

「ボクが宮田くんに、バレンタインのチョコなんてあげるワケないじゃないですかあ」

だよなー、悪いなー、と笑う木村の肩越しで。
宮田は不機嫌そうな仏頂面の中、眉だけを実に複雑そうに寄せていた。





















その日宮田の父は帰りが遅かった。
今年川原から出す新人らの、デビュー戦へ向けての練習メニューについて会長らと話し合っていたのだ。夕飯時もとうに過ぎた21時台の住宅街は、結構な暗さだった。
息子はもう当然に帰っている時間帯だ。生真面目なボクサーである彼の息子は、夜遊びとはほとんど縁が無い。
しかし予想に反し、家の灯りは点っていなかった。
はてなと首を傾げつつも、鍵を開けて家へ入る。
玄関先の明かりをつけると、息子の靴があった。やはり帰っているらしい。
部屋寝てでもいるのかと思いつつも、
「ただいまー」
普段の癖でそう発しながら居間の電気を点けた。
照明にすぐ馴染んだ目を、ふと横の食卓へ流すと、うすい闇の中亡霊のように息子がひとり席へついていた。

父は腰を抜かしかけた。

「い、い、いい 一郎?」

呼びかけられて、宮田は重げに顔を上げた。
今まで伏せられていた視線の先には、食卓に置かれていた小さな手のひら大の、

「な?何だね、そりゃ?」

何でもない、と素っ気無く答え、宮田はコーラルピンクのリボンがかかったそれを取り上げ、椅子から立った。
そうして存在感無く自分の脇をすり抜けて行く息子を、まだ驚きの抜け切らない表情で父は見送る。
とん、と階段に足を乗せた音で我に返り、そうだ今日は、さてはアレは、と思いついた父親は、

「おい、わかってると思うが、食うなら分けて」
「・・・・・・ああ、わかってる」

無理して作った感のある無表情な声が、それでも真面目に返ってきた。
青春、しとるのかなあ。
息子の去った階段を廊下から見上げ、父はぽかんとした表情のまま、なんとなく2・3度、うんうんと頷いていた。














そのころ一歩は久美さんからの、初めて異性からもらった本命のニオイがする装丁のチョコを抱き、たいそう幸福な夢を見ていた。
















あとがき

こんな関係の宮田と一歩?というか宮田と一久美?がツボです。
宮田は色んな方向から一歩に悶々としてるといいなあ。
宮田と一&梅とかはコレと同じ法則でごっつハアハアします。
ヤキモチ宮田!「オレだって友達いないのに…!」(え…)
た、たまには宮→一もいいじゃないということで。失礼しました。


(2006.02.14)

拍手

PR



コメントを投稿する






<< 夕餉を摘む太い指(鷹村+寛子)  |  ホーム  |  泣くも男で泣かぬも男、ゆくがあしたの桜道(青木村) >>