暗いけど書いてみたかった中学生暗黒期双子を続きに置いてます。
ホントはラバ雲っぽく(王城ってカトリックっぽい気がするから。でも気がするだけなんだけど)書いてみたかったけど、思いつくままやってみたら第三者のかけらもない家庭的な感じに。
聖書における人類初の殺人が兄による弟殺しだなんて、聖書恐ろしい。阿雲に変換しないでいることができなくてごめんなさい。
雲水は料理わりとうまいと思う!阿含にはかなわないけど。
阿含はオレが作ったほうがうまい」と言いながら雲水の作っためしをもりもり食べているイメージ。
それはどれだけブラコンなんだ・・・・
いまさらいまさら!
神が愛するのは弟のみと創世の時代から決まっている。
兄が弟を憎むあまり、その手にかけることも。
雲水の双眸からは涙が滴り落ちていた。
阿含は呆然と眺めていた。
雲水は学校から帰ってそのままの制服姿である。元が華のない昔ながらの学ランなのに加え、坊主頭で面立ちの鋭利な雲水が着ると一層禁欲的で静謐な雰囲気である。カッターシャツの襟元すら緩んでない。着崩せば楽なのに。
「どうした」
しばしが経ってから、阿含の喉から声が出た。
雲水は握った包丁を見下ろして、ああと応えつつ包丁の刃を下へ降ろしつつ、
「……玉葱が、目に、沁みて沁みて」
な ん だ と
確かに覗き込んでみれば、雲水の背後、キッチンには十二等分に刻まれかけた玉葱の姿とツンとくる匂い。
「ビビらすな」
阿含は安堵の溜息と一緒に悪態を吐く。
「刺されるかと思ったぜ」
軽口のつもりだった。
雲水は傷ついた顔をした。
しまったと阿含は思った。刺されるよりも効いた。
本当に殺されるのかもしれないと思ったのだ。刃物を握りしめた兄の、表情のない頬を涙が濡らしていて、その顔が振り向いてこちらを見た瞬間、ああついにと思った。
きっとあの切っ先は俺の腹に食い込む。兄の涙は一生止まらない。阿含にはどうしてやることもできないのだ。神が愛するのは弟のみと創世の時代から決まっている。
兄が弟を憎むあまり、その手にかけることも。
「包丁しまえよ。危ねえな」
ああ、と雲水は答えた。俯くと彫りの深い目元から、涙の筋の残る頬に影が落ちた。見ていられず、阿含は床を蹴立てて二階の自室へ逃げ込んだ。
規格外を自覚する阿含にとって、思い通りにいかないことは少ない。その少ない中でも筆頭のぶっちぎりが双子の兄だ。思い通りにならないどころか、思い通りが何なのかわからない。現状がものすごく苛立たしいのは確かだ。それで、兄に求める理想はというと、わからない。だんだん、もう自分が何なのかすらわからない。
阿含が自己嫌悪に陥るのは兄について深追いした時だけだ。だからあまり考えないようにしている。しているのに、雲水は阿含に踏み込んでくる。勘弁してくれ。
阿含は薄々自覚している。雲水が傷つくと自分も傷つく。
「あごーん!」
階下から呼ばわれて、阿含は顔を上げた。
「なーにー!?」
大声を返す。
トントン階段を昇る音がして、すぐそこから扉越しに声がかかる。
「カレー食うか」
「あ゛ー」
腹は減っている。腰を上げた。
部屋の扉を開けると、階下へ降りかけた雲水が振り返る。目が合ってしまって気まずい。
雲水は少し逡巡してから口を開いた。
「毒入りカレーだ」
阿含は眉間に皺を寄せて首を傾げた。
「…へ、へぇ…?」
「……冗談だ」
雲水の冗談は、たまに恐ろしく笑えない。
「…食いづらくなる冗談かますんじゃねえよ…」
「ごめん」
兄なりに、先ほどのちょっと気まずい感じを払拭しようと、気を使っての冗談なのだろうが。
その不器用さと、思いきり外したやるせなさにガッカリしている後姿がなんだか可愛かったので、阿含はカレーを食いながら大サービスをする。
「うめっ」
「普通だろ」
「フツーが一番うめえの。んん、うめえ」
実際雲水のカレーは、ジャガイモが半分近く溶けて、ルーがありえないこってりさになってるのが異様にうまい。
「はー、やっぱ俺、カレーじゃコレが一番好きだわ。おかわり」
「ん」
差し出された皿を受け取った雲水が、珍しくむずむずと喜色を抑えきれない笑顔になったので、今はそれで良しとする。
おわり