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2024/05/06 (Mon)
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2015/05/31 (Sun)
「百年紅白双子の祭り」
Comments(0) | ES21:双子
金剛兄弟お誕生日おめでとう!!!
の、話です。また雲水が女運悪い感じです。






久しぶりに酔うまで飲んだ。自宅へ帰りたくない。阿含はタクシーを呼んだ。兄のマンションまで20分だ。走らせながら、仮眠を取る。
万札で払って、釣りを受け取った。目をこすりこすり階段を昇り、インターフォンを鳴らす。ややあって、兄が玄関扉を開けてくれた。入れて、つーか泊めて。と半眼でぼしょぼしょ言う双子の片割れを見下ろす兄の表情は、なんだかものすごくぎこちない。
あん?
胸騒ぎを覚えて阿含は、視線を床のタイルへ落とした。
女物の靴がある。
…無言で見つめた。
シルキーホワイトのオープントゥがテカテカしている。
やまだかつてない緊張が阿含を襲う。兄の家に女が来ている。前代未聞である。
おかしいことはない、しかるべき、あってしかるべき段階なのだが、なぜだか衝撃に体が揺れる。
にーちゃん…!
「あがれ」
兄は重い声で言った。
「え、いいの」
「いいっていうか、あがれ」
遠慮する素振りを見せたら引っ張りこまれた。
2、3度訪れて勝手の知った1DKの窓際に、女が立っている。
「あ、こんちはー、えっと弟です」
いまだものすごくぎこちない顔をしたままの片割れを指差しながら自己紹介する。
「え、彼女?」
雲水もその女も、首を横に振った。
リビングにあたる6畳の中央に据えられた座卓には、手料理とおぼしき煮物と焼き物が湯気を立てている。
「あー」
阿含は頭の後ろをぼりぼり掻いた。
「俺さー、おかゆ食いたいんだけど」
「えっ」
お嬢がビビる。
ごめん、ナントカさん、と兄が女性を玄関へ促した。こいつ酔ってるから。もう遅いし。駅まで送ろう。
「てめーは俺に粥作んだろーが」
阿含は兄の坊主頭を鷲掴みにして抱きかかえた。






「帰してよかったのかよ」
口を尖らせて言いながら梅干を箸先でちぎる。
「お前はブラコンすぎて心配になるわ」
「誕生日の深夜に兄貴に手料理ねだりにくる奴に言われたくない」
「向こうは雲水のこと狙ってんだろアレ完全」
「知らない」
雲水は頭を抱えた。
「一回、飲みの帰りに泊めたんだ」
「はあ」
「終電も金もないって言うし、俺その気なかったし」
「はあ」
「どうしてこうなるかな」
「てめえがばかなんだろ……」
七分粥に梅干を混ぜながら食いはじめる阿含の目は死にかけだ。
「据え膳だろ、食っちまやあ良かったのに」
「むりだ」
雲水が1800mlの紙パックを傾けた。湯飲みに注ぐ。安い日本酒の香りが、辺りに漂う。
「飲め飲め」
阿含は粥を飲み込みながら笑った。うまいうまい。喉が、喜んでいる。
弟の様子を半眼で伺いつつ、爬虫類のような顔つきで味海苔をぱりぱりと食んでは酒を飲んでいた雲水が、ふと弟の皿を見下ろして和らいだ。
「紅白だな、めでたい」
そして魂を搾り出すような溜息の、後半を苦笑にすら変えて、疲れきった風情で肩を揺らすのだ。
「阿含、女は怖いなあ」
「…いや俺はお前より怖いモンないと思ってるからね…」
「なんでだ」
「なんか簡単に俺を殺して自分も死にそうなトコが…」
「それのどこが怖い」
阿含は皿から顔を上げた。四角い座卓を挟んで、双子、ほとんどきれいな線対称で見つめ合う。
感謝しろよ女…と先ほどの家事自慢くさいお嬢さんに心の中で恩を売る阿含。うちの雲子たんは色々と深刻さがマジなんだぜ。愛されようと思ったら命懸けだ。どんな蛇蝎よりもたちが悪くて美しい。ほら見ろ、味海苔3枚で一升空けるかよふつう…
阿含は湯呑みを捧げ持った。うつくしく同一のタイミングで雲水の杯も持ち上がる、水面が揺れ、ああ、と互いに引き寄せられて縁が鳴る。
いい夜じゃあないか、と阿含は思った。
10年経っても100年経ってもきっとこの夜は思いだせると、そう思った。




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