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2014/01/04 (Sat)
「必殺サイレントマリアナックル」
Comments(0) | ハイキュー!!
岩ちゃん女体化の及岩前提の花岩小説です。
クリスマスネタを書き直し続けていたらこんな時期に。







必殺サイレントマリアナックル








12月24日前後のショッピングモールにはミニスカサンタがいる。所属の店舗によりマジからやっつけまで仕様は様々だが、イベント感と女っ気が相まって、男子高校生の胸には色々な作用をもたらす存在だ。
「いたか矢巾!?」
目を血走らせた及川が叫ぶ。
「いません!このフロアはもう捨てるべきです!」
後輩はそう返しながら携帯のフラップを開いた。履歴から探してダイヤルする。
「渡、集合だ」
話し途中で及川がひったくった。
「1階は一年を残して総員上フロアへ引き上げる!引き続き上階との連携を保ちつつ目標の捜索にあたれ、発見次第通達せよ!深追いは禁止する!」
わらわらと1階南口の総合インフォメーション前に集まってきた男子高校生数名は、目が合うなり頷き合って早足でエスカレーターへ向かう。走るとお店の誰かに怒られるのだ。軍隊めいてシュールである。
「しかし、本当にいるのか…?」
運動のためだけでない汗を額にかきながら、矢巾は呟いた。
「可能性は80パーセントというところだな」
黒目勝ちの瞳を不安気に曇らせて、渡が答える。二人の背後で、キッズウェアショップのイルミネーションが不穏にまたたいた。スノーマンの目は怪しい青緑色だ。
「いるさ」
その青緑に負けず劣らずの眼光を底光らせながら、及川がゆっくりと振り向いた。エスカレーターの手摺を持つ手には薄く血管が浮き出ている。
「必ず、いる。俺にはわかるんだ」
「及川さん、なぜ…」
「匂いがするんだよ」
エスカレーターから降りると、一面は家族連れやカップルで賑わっていた。平日といえど夕刻になればこの混雑ぶりだ。いたとしてもこのモール内から、たった一人を見つけられるものなのか………………
………………いや。
「俺にはわかる。匂いがするんだ。岩ちゃんはこの建物の中にいるよ―………必ずね」
フロア端のゲームセンターから、稲妻の効果音と女性客の悲鳴にも聞こえる歓声が響く。
青葉城西高校男バレ部の面々は、静かに戦慄した。



そもそも、男子会のはずだったのだ。
学生向けの服とスポーツブランドのショップを冷やかして、フライドチキンのテイクアウトから隣接のカラオケに雪崩れ込む予定だったのだが、狂った。
見覚えのあるミニスカサンタが数人、募金箱を持って立っていたのだ。歳末助け合いのなんとかである。女バレの2年だった。にあうじゃん、とか、バイトいいのかよ、とか、男子数名でからかい半分につっつくと、社会科学研究部の手伝いだとかなんとか。
じゃあオレらここ見て帰っから、と背を向けてすぐ、背後から携帯をかける物音と声が聞こえてきた。
「ごめんマジで男子来た。今一階の南口。及川?いる。あっヤバ」
及川が獣の動きで振り向くや疾走し、女子の手から通話中の携帯をもぎとる。募金箱を抱えて防ぎきれない2年女子がその勢いによろけながら叫んだ。及川が電話口に叫ぶのとほぼ同時だった。
「岩ちゃん岩ちゃん!?」
「岩泉逃げて!!」
ツー、と通話口から電子音がしている。切られた。
「……どういう事かな」
「知らないわ」
真顔を向けてくる及川に、姿勢を正しながら目を逸らすミニスカサンタ。他のサンタたちがその肩や背を支える。誰も目を合わせようとしない。
「なに?女バレの2年全員いるの?」
「べつに。有志よ」
「岩ちゃんは」
「知らないったら」
数名、視線が泳いでいる。
「岩ちゃんも…なにかい。それかい?ええと。それだよそれ」
携帯の先っぽで同級生女子をクイクイ指しながら及川が言い募る。返しなさいよと奪い返されるが抵抗しない。
「それだよ、その。ほら。」
花巻は助け舟を出してやった。
「ミニスカサンタ?」
「それだよ!!!!」
叫ぶ及川。
「及川、怖い」
女子はどんびきだった。
「岩泉のミニスカサンタ」
繰り返して、花巻はクラブメイトを振り返った。全員、不思議なかんじの真顔をしていた。
「どうなんだ…?」
「わからん」
「似合う?」
「似合わない?」
「つーか着なさそくね?一人だけトナカイに甘んじて大地を踏みしめてそうじゃね?」
「全員担ぎ上げかねねえな」
「俺はあいつはサンタよりなまはげに近いと思うんだ」
「俺はなまはげより伊達政宗に近いと思う」
5人くらいの声が唱和する。
『ど…独眼竜…!!』
「政宗くんのことは今はどうでもいいよ!!」
及川が大喝した。
ミニスカの丈は膝上20センチくらいなのだ。しかも襟のかわりに白いフェイクファーがふわふわ首周りにからみついていてすげえかわいい。
「これは郡山合戦をも凌ぐ歴史的大事件なんだよ!!」
「お前、郷土史に謝れよ」
言いたい事はわからないでもないが。
及川は、あえぐように、
「だって岩ちゃんが…」
そして、継ぐ言葉もなく、絶句して目をつぶった。
他の男子勢も、釣られてふと考え込む。
岩泉が。
彼の人には、いつも、なんだか、とても、お世話にもなっているのだけれど。
同時に、なんだか、男のプライドとか面子をしばしば削られている男バレの面々である。
「どこでやってんのかな」
ぼそりと、誰かが呟いた。
「東口か屋上じゃね?」
「見に行く?」
「そら、まあ、行くべ」
「だから、」
と女の子たちは叫ぶ。
「いるなんて言ってないじゃん。いたとしたって、こんなの着ると思う?」
「おもしろい」
及川の目に青緑色の光が宿った。
「探し出して、確かめてやるさ。………この目でな!」
それが、1時間ほど前の顛末だ。


花巻は、ベロア風の赤い生地に身を包んだ鋼の腕に耳の下を締め上げられながら回想を追えた。
男子トイレの掃除用具入れだ。
「声を出すなよ」
温度を持たぬ声が背後から脅しかかってくる。もがく花巻。目の前が半分以上暗くなってきた。
花巻はそも、女性向けの下着売り場を捜索していた。客と店員の目が気になるしんどいゾーンだが、わりと周囲の視線に動じないタイプなのでがっさがさに動ける人選で花巻である。しかし、ヤング向けのベビードールコーナーにも、年配向けのボディスーツコーナーにも岩泉の影はなかった。
捜索を半ば諦めた花巻は、おしっこしたい、と思い、男子用便所に入った。
手を洗いながらふと思う。
男子が探しにくいところに隠れたと思えば、そりゃ女の下着だの便所だのがいちばん可能性ありそうだけれども、そんなことは岩泉だって考え付くんじゃないかと。
裏をかけば、たとえばこんな所こそ、盲点とは言えまいか。
男子トイレの個室はすべて空いていた。隠れるとすればここか。掃除用具入れのドアに、手を掛ける。
あーばかばかしい。俺も何を本気で探しているんだか。
ごそり、と、STAFF ONLY の札が貼られた扉の中から、動く音が聞こえた。
ドアノブを回しかけていた手が静止する。何だ。まさか本気にはしていなかった。肩に緊張が走る。ドアが開いた。内側から手が伸びてくる。蛇のごとく滑らかに、音もなく、殺意をもって喉首に絡みつく。花巻は引きずり込まれた。


苦しい。頭からは血が引いてゆく。意識が肉体から剥離しつつある気持ちの悪さ。こわい。死ぬ。
背中に、二つのふくらみが押し付けられている。
なんでかそこに関してだけは、意識がハッキリしている。
こんな状況でありながら、夢のように柔らかい。
「む…、が…!」
「声出すなっつってんだろ。落とす」
宣言とともに、身体が後ろに傾いた。体重をかける気だ。まずい。そして柔らかいものが背中でふやんと潰れる感触。
「胸が、当たってる…!」
声を、絞り出す。
「…………」
犯人は一瞬の硬直ののち、速やかに緊縛を解除した。
首を絞めていた腕の力が緩められると、下がっていた体温がすうっと戻り、視界にも光が返ってくる。バックから頚動脈を決められたのだ。脳に血が回らなくなれば人間は昏倒する。
「殺す気か」
喘ぎながら振り返れば、岩泉がバケツに片足をつっこんだ状態で、膝を抱えてうずくまっていた。
花巻も、どっと力が抜ける。掃除用具要れの内壁に背中を預け、ずるずるとしゃがんでいけば、狭すぎるせいで足が交互に絡まった。
「……その乳はどっから持ってきたの」
「……元からあったのを開放したんだよ…」
そう。と応える花巻の頭に、傾いたモップが降ってきた。いてえ。
「はじめちゃん」
「はじめちゃん言うな」
「ちょい顔上げてみな」
「うー」
唸りながら、じろりと睨んでくる。帽子がどっか行ってるのが残念なところだけれど、
「かわいいじゃんよ」
素朴な感想を述べた瞬間、顎を掴まれた。
「骨を砕いてやろうか」
「なんでだよ。いやごめんなさい」
下顎を包む岩泉の手が嫌な震え方をしたので、花巻は素直に謝罪する。
なんでこんなにひねくれて育ってしまったのだろうか。
「……及川が悪かったのかねえ」
「あん?」
岩泉の手首を捕まえて、膝の上に戻してやって、手の甲をぽんぽんして宥めながらこぼす。
「こうやって追い掛け回してからかったりするからさ。及川にゃ悪気どころか愛情しかねえと思うんだけど。だからヤなの?女の子っぽい服とかが」
岩泉は、への字口になって考え込んだ。
「……そうだな」
やがて、肯定した。
「……中一の時な」
語りだした。
「うん」
と、素直な相槌で促す花巻。
「女子の制服、初めて着たときな」
「うん」
小学校までは男子全開だったと聞く。
「あの野郎、入学式に乗じて写真くそみそに撮りまくりやがってな」
「うん、うん」
「その年の年賀状に牛と俺の女装写真を合成加工してばらまきやがってな」
ひでえ。
花巻は掌で目頭を覆った。及川さんよお。あんた何やってんだよお。
「ミノタウロスって陰口をきかれる度に肝臓に一発くれて「牛の角は二本あるんだぜ」で顔面っていう上下時間差コンビネーションを2ヶ月ほど繰り返してたら、気が付いたら野獣と呼ばれていた」
「お前も何やってんだ」
楽しそうじゃねえか。
「それで、」
と岩泉は、言い淀む。目線を、ちらりと、床へ逸らし、
「……来年は、午年だろ」
「うっ」
花巻は呻いた。
ケンタウロスが降臨しかねないというわけか。
「……わかった。黙って見逃すから、この隙に逃げろ……」
「ありがとう」
岩泉は、頭を下げた。
「この借りはいつか必ず返す」
「…………」
花巻は、まじまじと見る。
「何だよ」
頭下げてんだろ、と、また視線に険が混じりだす岩泉。
「じゃあ、ちょっと、立って」
「うん?」
岩泉は、いやな顔をした。
「なんで」
「いーから今立つ」
うええ。と、ぶつぶつ言いながらも、岩泉は抱えていた膝を解いて、おそるおそる立ち上がった。花巻も続いて腰を上げる。距離が、近い。
「殴んなよ」
「わーったよ」
「かわいいよ」
瞬時、顎が掴まれた。
「……殴んなっつったろ……」
「………悪い」
条件反射で。と、赤い顔で詫びながら、岩泉はアイアンクローを解除した。
「かわいいよ」
「わ、わかった。もういい」
「いや、わかってねーでしょ」
「ああああ」
重低音でうめきながら、岩泉は背を向けてしまった。壁に額を押し当てて何かに耐えている。その耳が赤い。壁を引っ掻いている。
「か。かわいくは、ないだろう」
「お前、疑うなら、こっちの眼見ろよ」
「う、うくうう」
そっと肩越しに振り向いてくれた岩泉の顔を見て、花巻は絶句する。
睫が濡れていた。ショートヘアが伸びて肩に届きがちの髪が、汗で首筋に張り付いている。背中ごし、二の腕の向こうで、ふっくら上向いて膨らんだ夢のような形をした双丘が、壁に押し付けられて形を変えていた。膝上は20センチだ。やわらかい曲線が太腿の輪郭を描いて、可憐なくらい丸くて小さい形をした膝がちょっと震えている。
「ほ…、ほんとう、か、?」
蚊の鳴くような声で尋ねられて、花巻は床に沈みこんだ。



「おまえさあああああああああ」
悲鳴のようなツッコミが口からほとばしる。
「ばか、声でかい」
うずくまったまましばらく動かない花巻を、揺すったり叩いたりして心配していた岩泉が、とうとう平手を振るう。
「いて。でも、あー、くそー」
頭を抱え、何やら憑かれたように悪態をつき始める花巻。
「なんなんだお前は」と岩泉は目線を合わせてしゃがみ込んだ。
「でも、ありがとう」
「あん?」
「じ、自分じゃよくわかんねえけど。やっぱ、……ちょっと嬉しい…」
ゴリラとも、猛牛とも、野獣ともつかぬ生き物が言う。
「……………………」
花巻は、なんだかもう、絶望に近いものを感じていた。
なんで俺がこんな。叩きのめされなきゃならねえんだ。
腕っ節で負けるだけでもまず有り得ねえだろう?ありえねえんだよ。だってのにさあ。反則だ、なんなんだ。
「あのなあ。及川だって、きっとそう言うよ」
咄嗟に口を突いて出る。
岩泉と言えば及川で、及川と言えば岩泉なのだ。阿吽の呼吸、割れ鍋に綴じ蓋、引き金には砲身、星のようにまばゆくても互いに手を伸ばさずにはいられないんだろう。
「かわいいって、及川だって、きっと言うよ」
しかし、岩泉は人の吐いた反吐を見る顔をした。
「それはそれで鳥肌がたつな」
「なんなんだお前らはあ!!」
心から、花巻は叫ぶ。
「声でけえっつってんだろ」
「だ、だって、あー頭痛えわ…」
「なんでよ」
「なんでって、お前さあ」
お前さあ。
岩泉と花巻の目線がしっかりとぶつかる。
眼が潰れそうだ、と花巻は思う。
「おちょくられるのはイヤで、かわいいっつわれんのもイヤって、それは及川はマジで男兄弟みたいなもんって、そういう感じなの?及川とどうにかなりたいってのは、ねえの」
「及川と?」
岩泉は、首を傾げた。
「……どうなりたいかって、そんなのは」
考え込む眼が、花巻を通して遠くを見ている。星を見ているのだ。
恋をするという事は、そういう事なんじゃないかと思っていた。
及川と岩泉は、なんだかんだ言って仲がよい。兄弟のように。親友のように。じっさい、兄弟で親友なんだろう。血よりも濃いものが流れているのだろう。トスの軌道を見ていればわかる。岩泉の腕へ、吸い込まれてゆく。星よりも、まばゆいものがある。

「……もう一度、同じコートに立てるなら、他に何もいらない」
そう言う岩泉の目の色に、こんなに綺麗なものは初めて見たと花巻は思った。





着信のメロディ音が響き渡った。
がたたた、とバケツやモップやちりとりを蹴立てて、互いに体を起こす。
「き、切って」
「や、まずい、これ、及川」
着信元の名を携帯ごと見せると、岩泉の顔色が眼に見えて青黒くなった。
「い、いやだ。ケンタウロスはいやだよう」
「出るぞ。定時連絡入れそびれたから確認だけだ、きっと。声出すなよ」
通話をタップして耳に当てる。
「もしもし、悪ィ」
『マッキー?』
「うん」
『岩ちゃんがいるね?』
舌が、喉にはりつく。
しん、という沈黙の音が、耳に痛いほど。
首だけを回し、岩泉の顔を見た。ふるふると震えている。
『どこにいるのかな、二人とも』
「…え、や…」
『ここかな?違うなあ。におうなあ。こっちかなあ』
通話を切る。
「せ、精神がもたん」
「花巻…!」
岩泉がしがみついてきた。涙目だ。
うっ、と思わず喉が鳴る。守ってやりたくなるではないか。
「脱げ」
「は?」
しがみついてきた手が、制服の襟にかかっている。
「脱げ。いいから脱げ」
「何すんだてめえ!?」
「しのごのいわずに脱げ頼むから脱げ土下座でもなんでもするから脱げ」
「やめろ剥ぐな!痴女か!!なにすんだこら!!!」
岩泉の双眸が、暗く光る。
「おれのダブルロングホーンを味わいてえか」
肝臓の位置に拳を押し当てられ、花巻は白目を剥いて両手を挙げた。



「花巻……」
松川の声は深い。
「花巻先輩」
「マッキー先輩」
後輩たちの声も、不思議な湿り気を帯びている。
及川の顔もなんだか石像のようだ。
「マッキー。キレイだよ」
「センキュー」
モップにまたがってみる。
「あなたの街の魔女です」
「もういい、もういいよ」
松川がそっと上着を脱いで、肩にかけてくれた。
「花巻先輩、ぱんつ見えてますよ…」
「しょうがねえじゃん、俺が着たら膝上が股下スレスレなんだもんよ…へへへ…」
「花巻先輩は、そういう役するキャラじゃないのに」
「俺だって、辛いんだぜ?」
泣きたいんだぜ?
しかし本当に泣きたいのは誰か、花巻にはわかっている。
謝らないけど。お前がわるいよ。
牛頭馬頭の呪いがかかってんだよ。
及川が、静かに男子便所の床に寝転がった。
「おい、きたねえぞ」
「もう俺、一歩も動きたくない気分」
「よし、踏めみんな」
「ちょっ、何すんのマッキー」
「こうですか」
「こうですかね」
「やめろ後輩たち!やめろよう!」
「混ぜろ」
と、ひときわ男前に台詞が響く。岩泉が現れた。
「と、トナカイだー!!!」
「無理言ってかえてもらった」
「い、いわちゃん!!!」
飛び起きて、携帯を構える及川の手首を叩き折る岩泉。
「あ゛ーーーーー!!!!」
床を転がる携帯を、偶蹄類の蹄が踏み潰す。
「最初からこうすりゃよかった。ごめんね花巻」
畳んだ制服を返却される。
「見て見て岩泉。あなたの街の魔女です」
モップにまたがってみせると、岩泉はえずくほどに咽ながら、腹を抱えて蹄で壁を殴った。みしみしと軋む。
「やった、ウケた」
「岩泉先輩、意外と笑いのハードル低いスね」
「マッキー。」
背後から、携帯の残骸を抱えた及川が、肩に手をかけてくる。
「その制服でいいから、ちょっと、一日貸してくれないかな。ほかにもいろいろ問い質したいことはあるんだけどソレはおいおい。一日貸してくれないかな。」
肩に、指がぎりぎりと食い込んでくる。
「き、気持ち悪いからいやだ……」
真顔で拒否をすると、岩泉が
「何やってんだ」
と割って入ってくれた。
「花巻に絡むんじゃねえよ」
及川の両頬を蹄で殴打する。なんかもう全てがひどいよおおおおおお、と及川が叫び始め、花巻は安堵した。
守ってもらえそうである。
そして、大丈夫だ。俺は、まだ、大丈夫だ。


その後、男子全員でなだれこんだカラオケでは、及川の美声が異様な気迫と湿度でうなりをあげ、とてもうっとうしかったという。
しかし後輩は、楽しかったです、とあいさつをして帰っていったので、よかった。
よかった。
と、ちょっと甘い匂いのする制服に身を包み、花巻は不思議と切ない気持ちで帰路の空を見上げるのだった。
メリークリスマス、及川の年賀状が楽しみだ。

おしまい

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