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2010/12/07 (Tue)
「ストーキン」
Comments(0) | 一歩(宮一)


通勤中に唐突に浮かんだ宮一(?)話です。














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不思議なものを見た。絵本の中にある光景のようだった。パステルやファンシーという、縁のない単語がふと浮かんでは消えた。
幕之内が、紐を持って歩いている。
笑顔である。
紐は風にたなびかされながら上へと伸びて、てっぺんに赤い風船がついている。
かわいらしい。
何がって、まあ、全体的に。
土手の上を歩む一歩は、芝を挟んで下の歩道にいる宮田の視線に気付かない。
用事などないから、声はかけない。
かけないが、なんとなく、おもしろい光景であったので、宮田はふと同じ方向に足を向けた。
ちょうどいい、散歩というか歩きたいかなと思っていたところだったのだ、暇で。
ツンツンした髪の毛がはねたり弾んだり、その上にあるりんご色の風船は寄ったり離れたり、まことにのどかである。
自分の目がおかしいのではない。
その証拠に、今一歩とすれ違った主婦二人組が、通り過ぎざまにちらと眼で追って微笑んだではないか。
また、犬を連れた老人と擦れ違う。やはり微笑されている。
だけでなく、何やら声をかけられている。
一歩もぺこぺこと頭を下げたり屈み込んでは犬の頭を撫でたり、どうやら顔見知りの様子である。
老人が、一歩の頭上にある風船を指差した。一歩が何かしら受け答えて、二人して笑い合い、手を振りながら別れる。
宮田はそれを下から眺め、また黙ってついてゆく。
さすがに、声もかけずにただついていくのは、気まずいような気がしてきた。
しかし壊したくない。
終わらせるのもいやだ。
結局また黙って同じ方向に歩く。
やがて道は開けて潮の香りが濃くなり、ぽつぽつと電柱や民家が建ち並び始めたころ、白い犬が転がるようにして一歩の足元へと駆けてきた。
「ワンポ!」
一歩ははしゃいで犬を抱きとめる。
「迎えに来てくれたんだね、ありがとう、いいこだね」
犬が赤い風船を気にして鼻を鳴らし、
「これは風船だよ。商店街でもらったんだよ。食べられないよ」
一歩はそうなだめ、連れ添って彼らの家へと入っていく。


宮田はここでようやく茫然とした。
家まで来ちまった。

 

 



翌日、宮田は不調であった。
いまひとつキレてない。顔に落ちる陰が濃い。
「宮田さん、なんか元気がないみたいですけど…具合大丈夫ですか?」
後輩の鈴木が心配してくれる。性格もボクシングスタイルも丁寧で素直な、有望の部類に入るよき後輩だ。
「ああ、問題ない」
「そうですか?あの、顔色が悪いみたいで…風邪とか今流行ってるから」
「体調は万全だ」
問題はメンタルだ。
「じゃあなんか、ストレスたまってるんじゃないですか?ほら、こないだの試合で、取材すごかったじゃないですか。女性ファンにストーカーされてたりして」
ピシ、と宮田の頭の中で、何かが割れる音がした。
「女のストーカーは怖いらしいスよ。宮田さん、心配事があっても自分で抱えちゃいそうだから、なんかあったらすぐトレーナーに言って下さいね」
余計なお世話っすけど、と眉尻を下げる後輩に、かろうじて頷く。
加害者側だなんて言えない。

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