忍者ブログ

2024/05/06 (Mon)
「[PR]」
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。



2015/03/18 (Wed)
「必殺オデットハリケーン」
Comments(0) | ハイキュー!!
岩泉女体化の、及岩前提の、牛岩多めのホワイトデー話です。
3/20 最後あたりを書き換えました。
ちゃんと完成させてから公開する!がなかなかできてなくてまことに失礼しております;;


必殺オデットハリケーン



牛島若利がやってきた。
3月14日に。
青葉城西の門前で、物珍しげにじろじろ見てくる下校の女生徒を捕まえて、「すまないが」と断ってから「女子バレーボール部の部室へ」案内を頼んだという。
依頼は快諾されて牛島は招かれた。授業を終えて帰宅する生徒らの、それを見守る視線は暖かであったし、通りすがりの用務員さんもにこやかな顔で見送った。
なぜなら彼の手には花束が抱えられていたのだ。薔薇。薔薇であった。そんなセンセーショナルを引き連れて、牛島若利がやってきたのだ。
その報は風の如く校内の一部を駆け、結果、牛島は目的地到達を目前にして、男子バレー部によって別棟の男子部室へ拉致された。





頭痛に耐えている顔で額に手を当て、机に肘をついた及川が搾り出す。
「他校の生徒が入るのって理由ないとダメじゃん?」
牛島は、頷いた。
「女目当てとかヤバいってわかるっしょウシワカちゃん」
「お前と一緒にするな。俺は岩泉に礼を言いに来ただけだ」
ごくり、と、誰かの喉が鳴る音がした。
「い、いわ…」
「岩泉さんに…?」
一年生らがぼそぼそと囁き交わす。
「……え、岩ちゃんにバレンタインのやつもらったの?」
「もらった」
シン、とする。室内の視線が及川に集まる。及川は頬杖をついたまま、顔色も変えずに牛島を見ている。
「ンな義理に、ご大層にわざわざ返しにこなくても。重いし引くよ、ウシワカちゃん」
「義理ではない」
やたら重厚な、バリトン寄りのイケメンボイスだ。
「いや、義理でしょ」
「義理ではない。岩泉がそう言った」
一言一句が明瞭なる宣言だった。一同、言葉をなくす。衝撃の爆弾を落としておいて牛島は、やおらはにかみだした。
「やはり、これは、重いのか?」
眼前に置いた花束をいじりだす。
「あのさ、ウシワカちゃんさあ」
「その呼び方はやめろ」
「岩ちゃんが、岩泉さんがね、ほんとにあんたのこと好きだっつんなら、俺が口だす筋合いじゃないけども」
花巻が、松川の肩を殴った。
松川が殴り返した。二人、肩を組んで壁を向く。
「聞いたか」
「聞いたけど」
「どう思う」
「どうもこうも」
見守る部員一同も同感だ。牛島は訝しげな顔をしつつも大人しく聞いている。
「岩ちゃんがお前をって、ありえないから」
ちっさいカスミソウをぶっとい指でちょいちょいしていた牛島が、顔を上げた。
「お前はなんつーか…俺にとっちゃ敵だけども、岩ちゃん的にも悪役の親玉なわけ」
「岩泉のことなら」
牛島は鉄壁のごとき真顔で応じる。
「何でも知っているような口ぶりだが」
「まあね」
「お前の知らない岩泉で、俺が知っていることもある」
「何の会話だこれ」
誰かが思わず落とした感想は、その場にいる全員の胸の内を代弁していたのだが、拾う者があろうはずもなく消えてゆく。
フーン、と、鼻歌めいた相槌が、及川の口から漏れた。
「誰に手ェ出すつもりなのか知んないけどさあ。カップサイズから下着の柄から乳輪の色まで知ってんだよこっちは」
カタンとささやかな音がして、部室の扉が開けられた。
「アッ」と叫んで口を押さえる一年生が多数、その目が見ている先へ恐る恐る首を巡らす及川徹。牛島は表情を変えぬまま、しかしいくばくか明るい顔色になった。呼びかける。
「岩泉」
扉を開けて、外に立つ岩泉が、ちょい、と手招きをした。手のひらを上に向けるアメリカンスタイルに手繰られて、及川の尻が椅子から浮く。死体のような、笑顔であった。
及川が部室から出る。岩泉の手で扉が閉まる。

生卵を、手のひらに包み込む。
音量を最大にしたマイクを近付ける。
握り潰す。

そうして録音したものがこれです。としか表現しがたい効果音が響き渡り、矢巾が両耳を塞いで嗚咽を漏らした。
やがて、再び扉が開き、岩泉がしゃあしゃあと入ってきては「よお」と片手を上げる。
「なんか、あたしの客がいるって聞いてきたんだけど、え、牛島?」
「うむ」
「えっ、どうしたの」
「今日、ホワイトデーらしいな」
岩泉は驚いた。
「お前の口から横文字とか似合わないなあ」
それは同感ですけどもお!!と、男子部員の感想がまた、胸の内だけで団結の一致をみる。
「それでこれを持ってきた」
「ひええ」
牛島が立ち上がって花束を手にしたので、ようやくその存在に気が付いた岩泉は、お手本のような悲鳴を上げる。
「うちのチームメイトに色々聞いてみたら、バレンタインのお返しとかなら絶対これだと薦められたのだ」
「そ、そうか…」
遊ばれてんじゃねえか?という辛辣な感想を飲み込んで、岩泉は目を白黒させながら頷いた。
「う、うん。あ、ありがとな」
「い、岩ちゃん、ちょい待ち」
どっこい及川が生きていた。扉の向こうで臥せっているのか、上半身ががんばって扉を開けて身体をねじこんできている。
「何だよゲス川ハゲ太郎」
「ど、どういう、どうなってんの、牛島とさあ」
岩泉は沈黙した。
牛島は花束を抱えたまま、機嫌よろしくしゃんとした姿勢で立ち尽くしている。
「……バレンタインの、日にな…」
岩泉が、語り始めた。








2月の14日は土曜日で、昼から部活の予定であった。岩泉は膨大な手作りマフィンを抱え、しかし登校の順路から足を外した。駅前のドラッグストアで、スポーツドリンクの粉末を安く買い求めたかったのである。そこで牛島とインパクトした。
「大荷物だな」
と、牛島は言った。
「これな、女子バレー部から、男子部へ、バレンタインのプレゼントみたいな。まあ、応援か。毎年やってるワケじゃねえけど」
そう岩泉の説明を受けて、牛島は「そうか」と頷いた。眉間には皺が寄っていた。

「そういう事をしているから、お前達は弱いんじゃないのか?」

岩泉は絶句した。

なんて嫌なやつなんだ………
というのが第一感で、怒りにはらわたどころか頭の中身まで煮え返らんばかりだったが、悪気はないらしい、ここまで空気の読めない奴も珍しい……。と、牛島の真に忠告を呈してやっているのだフェイスを眺めるにつけ徐々に感想が色を変えはじめ、たどり着いて口から転がり出た返答が、
「牛島、お前、友達いないだろ」
意趣返しが5割、思ったことがそのまま出た感想が5割だった。
だったのだが、放ってから直後、岩泉は後悔する事となる。
牛島が、鼻面に雪球を、信頼していたブリーダーの手で投げつけられた紀州犬のような顔をしたためだ。
「えっと、わ、わるい」
なんだか慌てる岩泉。
「………友達など必要ない」
そんな岩泉に背を向けて、牛島は機械音声さながらに呟く。
「俺が求めるのはただ従順に尽くすプレイヤーのみ。友達など…友達など必要ない」
「う、牛島」
「弁当のおかずを交換こする必要など俺にはない。栄養価は計算してある。夜中にメールだの送りあう相手などいらぬ。睡眠の妨げになるだけだ」
「う、うしじま…!」
「休みの日に一緒に遊びに行く相手などいらぬ…!!」
岩泉に向けた背の、その広くたくましい肩が震えていた。
「一人でいくらでも、しなくてはならない鍛錬が…!」
「もうやめろ牛島あ!」
岩泉は涙混じりに叫んだ。手にした百貨店のショッピングバッグをごそごそする。壮絶な牛島の半生にゼイゼイ呼吸を乱しながらも、ひとつ、掴み出した。
「ほら、これ、あの」
ゴクリ、唾を飲み込みつつ、
「友チョコだよ」
「とも…?」
牛島が振り返った。
「うん、いま、義理チョコじゃなくて友チョコって、みんなやってるんだよ。友達にお菓子あげて、友情の確認っていうか」
「友情…!?」
牛島は、初めて聞いた単語を覚えるように、口の中で何度か呟いたようだった。その手に、岩泉がラッピングを押し付ける。
「ほら、これ!」
「う、ううっ」
「まあ何回かしゃべってるし、バレー仲間と言えなくもないから、広く括ったら友達といえなくもねえだろ」
「と、」
牛島の声が、うわずった。
「ともだち……?」
そうだ、と岩泉は頷いた。
「とも、だち………?」
「うん、まあ、遠からずかなって」
若干こわくなってきて、適当に肯定する岩泉。
牛島はぎゅっと目をつぶってふるふると震え、しかし、その小さい包みを押し返してよこした。
「受け取れない」
「あん?」
「今後また及川と、試合で戦うのに、同じ学校のやつに、こ、こんな…。素敵なもの…!」
押してはならなかったスイッチを押した手前だけでなく、生理的にかわいそうになる風情である。
「う、牛島。あのな、昨日の敵は今日の友って言うだろ」
「と、とも…?」
ハッとした牛島の顔色に、赤味が差した。
「それにな、好敵手と書いて友と読んだりもするという」
「そうなのか!」
「同じ道の高みを目指すという意味で、こう、まあいいじゃん」
「うん!ならいい!ならいい!」
牛島は受け取った。眉間には皺が寄っているし、唇も真一文字だのに全身から幸福のオーラが立ちのぼっている。
「す、すまんな」
「ありがとうだろ」
「あ、アリガトウ?」
「愛を知らない機械人間かお前は」
「俺は生きている!」
「知っとるわ」
投げやりなつっこみもなんのその、牛島は打ち取った敵の首を検分する目で、手中の菓子を見た。
「…形は、やや雑なようだが」
「うー」
岩泉が唸る。
「気に入らねえなら返せよ」
「なぜ怒る!?」
「悪気がなくても腹が立つもんは立つだろうが!」
繰り出される、悔し紛れに威力半減の拳を連打で腹に受け、
「と、ともだちっぽいな」
なぜか悦に入る、巨漢なのであった。









「ー…という、事があって、な」
そう岩泉は結んだ。牛島が偉そうに頷く。
花巻が疲れ目をこすりながら、
「なるほど、義理チョコじゃなくて」
「友チョコだ!」
「牛島それ喜び勇んで声を張るとこじゃねえんだけどなあ」
「なんか違うんだろうなあ価値観が」
「というわけで、これ、お返しなのだ!」
「牛島、喋り方が片言ぽくなってきてるけど」
「脂汗も見えるな」
「今更照れ臭いという感情を習得したのかな」
「人間に近付いてきて良かったな」
牛島は、やはり、ふるふると震えた。
「いや、なんだか、今更だがどうしてこんな大人数に囲まれているんだろうかと」
「そりゃお前…まあいいや。ありがとう」
岩泉が、花束を受け取った。
瑞々しい深紅や真白に誘われて、鼻を寄せてくんくんしている様子に、牛島は棒立ちで問う。
「重くは、ないか」
ん?と、岩泉が顔を上げる。鼻先から花の香を漂わす。
「軽いよ」
花束を少し上下運動し、
「それにあたしは力持ちだ」
真顔で頷いて見せたのだった。







「岩ちゃん、一輪くれないか」
「え~」
「いいじゃないか、俺の方が似合うよ、あいて」
「やらない」
「うそうそ、ごめんて」
「お前が薔薇なんて持ってたらシャレにならない」
「わ~い、ほめられた!」
なんつって!と道化て回りこみ顔を覗き見ると、「ばか」と柔らかくなじられた。
「岩ちゃん、なんかうれしそーだね」
岩泉は腕の中の花に視線を落とす。
「…花をもらって喜ばない女はいないって言うけど、あれ、ほんとだな」
帰宅途中の路に足を止めて、及川は岩泉を見た。通り過ぎて先を行くのをずっと見ていた。そうして数歩の距離を開けてから、振り返って、岩泉が、甘い水がこぼれるように笑う。
「だって、花束もらったのなんて、おれ、うまれてはじめて」
「そう」
発音する舌が、喉に張り付くのを引き剥がす。
「良かったね」
岩泉は首をかしげて、駆け戻ってきた。
「なしたよ」
「なんもしねえよ」
「うそ」
「嘘じゃない」
ただね。
「どっかの誰かに言われたけども、俺はやきもちやきなんだよ…」
岩泉の眉が、ちょっと下がった。
「で、でも、これは、やれない」
「欲しいんじゃないよ、あげたいんだよ」
うまれてはじめては全部俺が。笑わせるのも、全部俺が、ずっとだ。
「くれたじゃん。こないだバレンタインになんかうまいやつ。それにみんなへのお返しも、なんかいっぱいの」
男子部から女子部へのお返しは、駄菓子の詰め合わせを贈呈済みだ。質より量を優先した結果たいへん喜ばれた。うまい棒だうまい棒、と大はしゃぎする体育会系のかわいらしさよ。
「そうゆうんじゃなくて…」
「じゃなくて、なんだよ」
「う、牛島にさあ…。…いや、なんでもないけど…」
なくもないけど…。そうしぼんでゆく語尾に岩泉の形相がバッキバキに険しくなる。
花を左で抱えるや右手は拳、肘がすうっと退いたかと思いきや、突き出された。拳頭を腹に受けて及川は、後ろへ1メートル飛んだ。
「う、うぶえああああ、なにすんの岩ちゃん腹は潰れたら死ぬんだよ!?」
「うるっせえ!!うぐるるるる」
「唸るなよ怖いな!!」
「てめえの態度のうっとおしさのが凶器だわ!」
「凶器なのは、きみのっ、きみの…」
及川が、歯を食いしばる。
「なんだよ」
「何がともだちだよ」
「ああ?」
「俺は牛島を倒すよ」
ギスギスの及川だ。岩泉もむっつりして頷いた。
「白鳥沢潰すよ」
「おう」
「君が信じた俺のバレーを見せ付けて、オレンジコートも制する」
「おう!」
岩泉は手を伸ばし、及川の頬を両手で挟んで引き寄せた。振りかぶる。
怒級の頭突き。火花が散った。
「わかってんじゃねえか」
地面に倒れて数十秒、
「なんで攻撃すんの…?」
虫の息の及川だ。
「発破かけてやったんじゃん」
「岩ちゃんの気合注入は人によっては死を招くということを、よくよく覚えておいたほうがいい」
起き上がって、見詰め合って、どちらからともなく、雰囲気が和らいだ。
行こ、と促し、先に立って歩き始める及川に従い、岩泉もついてゆく。
うぐるるるるる。
唸り声が響いた。


「……岩ちゃん」
「………なんだよ」
「……凶器なのはね、きみの、きみの…」


腹の音だよ。

「………………………花より団子って言うけど、あれ、ほんとだな」





そうして2人はホワイトデーとて今日も、よちよちとコンビニへ赴くのだ。
及川はツナマヨのおむすびを三つ買ってあげた。



おしまい

拍手

PR



コメントを投稿する






<< おいいわまんがつめ~  |  ホーム  |  必殺スカーレットファング >>